企業研究者にとって切っても切り離せないものが「特許」です。
「特許を書くとお金がもらえる」というイメージはあるものの、何をどのようにもたらしてくれるか正確に言えるでしょうか?
tokkyo

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まずは、「特許とはなんぞや」「特許ってどうやって作るの?」という問いに答えます。


特許のイメージ
特許の形態は、およそ10~20ページの書類です。

企業に所属していない方でも、以下のサイトから閲覧できます。

やたらと難しい言葉遣いをしていますが、惑わされてはいけません。
要は「その製品にしかない独自要素を書き連ねたデータ集」です。


特許作成のプロセス
以下の6点からなります。

プロセス①:特許化するか上司と打ち合わせする
プロセス②:特許のコアの部分を書く
プロセス③:実験データを整理する
プロセス④:特許の骨子を書く
プロセス⑤:知財部の人と相談しつつ、骨子に肉付けする
プロセス⑥:提出

以下、詳しく見ていきます。


①:特許化するか上司と打ち合わせする
新しい処方でモノができて、それが良い性能を示した場合、だいたいは特許を押さえることになります。
特許化には以下の2パターンがあります。
 ・モノとして特許を書く
 ・製法として特許を書く

イレギュラーな戦略としては、まずモノとしての特許を押さえて、その製品を作った製法から普遍性のある部分を取り出して製法特許を書く、というものもあります。
どうやって特許を書くか、という戦略性が問われて面白いです。

例)今までに無い付着力をもつ接着剤Aを開発したぞ!


②:特許のコアの部分を書く
専門用語で「請求項」と言います。
「製品を製品たらしめる特徴的な要素」のことです。
新しいモノを作り上げるまでに検討した要素を並べて、性能に直結すると思う要素を書き並べていきます。

例)接着剤Aは以下の混合物である
1. エポキシ樹脂 2. ヒドロキシル基を30%含有するアクリル樹脂 


③:実験データを整理する
特許を成立させるには、裏付けのデータが必要となります。
これを専門用語で「実施例」といいます。

手持ちのデータを見直して、特許を成立させるのに足りないデータ・出すべきデータを見繕っていきます。
どうしてもデータを用意できない場合は、結果を予想して書きます。
どれだけ実験結果を正確に予想できるかが、特許作成のキモです。

実在するデータを使わなければいけない決まりはありません。
「アイデア特許」といって、アイデアを押さえておく特許もあるくらいなのです。
最初は無いデータを想像して書くことに違和感を覚えます。
しかし、数をこなすうちに慣れてきます。

例)接着剤Aは、ゴム基材に対して従来品の120%の付着強度を示す


④:特許の骨子を書く

 ・プロセス②で書いたコア
 ・プロセス③でまとめた実験データ
これらをもとに、どういう点を主張したいのか書いていきます。
この段階までは、小難しい言葉は使わずに、普通の書き言葉で箇条書きにしていきますね。

例)接着剤Aは従来品と比べて強い付着力を発揮できる


⑤:知財部の人と打ち合わせる
知財部とは、特許の校正と出願手続きを専門とする部署です。
プロセス④の段階で、一度アイデアを知財部へ送ります。
そこから、内容のすりあわせを行っていきます。

知財部の方々はいろいろな情報を教えてくれます。
・不足している情報
・審査に通りやすい特許のカタチ

例)接着剤Aと似た製品がSBRゴム用途にあるので、ゴムの中でもEPDMに特化してはどうだろうか?


⑥:出願
肉付けした特許案を、知財部経由で特許庁に提出します。
後は知財部からの連絡に応じて、特許の細かい校正を行っていきます。


特許1件あたりにかかる時間
私の場合、2週間~1ヶ月です。
一番時間がかかるのが「③実験データの整理」です。
まとめるパラメータが多すぎて、1週間かかることがザラです。
(私の場合、実験やデスクワークと平行して特許を書いているので、集中すればもう少し時短できるのかもしれません)


特許1件あたりの報酬
数千円です。
当社では、特許1件あたり10000円が割り当てられ、その10000円を関係者に配分します。
コストメリットはとても低いです。


特許を書くことで得られるもの
以下の2点だと思います。
・競合製品といかに差別化していくか、という視点
・自分の成果を世に出したという実感

企業研究者としての視点を養うことができます。
お金を払ってでも、書くべきです。

学生の方々も、企業での研究を考えておられるのなら、一度特許に目を通しておくのも良いですね。
特許に対する敷居が低くなって、就職への不安が軽くなるでしょう。

【参考記事】
研究開発職のお給料
新人研究職のお財布事情を綴りました。
今回の記事と併せて、懐事情の参考にしてください。

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