私は社会人から高分子の研究を始めました。
大学・大学院では農学部寄りの植物科学を専攻しており、化学は全くの門外漢でした。
しかし今、高分子化学に関して、一通りの知識をつけることができたと感じています。

今回は、私が高分子の分野にキャッチアップするために活用した教科書「Introduction to Polymers」を紹介します。

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Introduction to Polymersとは
イギリスにあるマンチェスター工科大学の「マンチェスター物質科学施設」の方々が編集した教科書です。

 ・教授のR. J. Young氏 
 ・上級講師(日本で言う准教授~助教授)のP. A. Lovell氏

の2名が著者となっています。
初版発行は1981年。
重版を重ね、最新版は3rd edition(2011年発行)となっています。
ロングセラーが窺えます。

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私が持っているのは2rd editionです。


使ってみて良かった点
以下の4つが優れているなと感じました。


①高分子の各分野が満遍なく理解できる
以下4つの章に項目立てられています。

 ・高分子合成
 ・構造の同定
 ・結晶構造
 ・機械的性質

この4つの項目は、高分子科学の基本的要素を満たしています。
高分子の分野がどのくらいあるのか、何をどのくらい集中的に勉強すれば良いのかが、初心者でも肌感覚で分かるようになっています。

新しい分野を勉強するときは、知らない分野をどこまでかき集めれば良いのか分からなくなりがちです。
私の場合、知らない分野が怖くて立ち往生してしまいました。
例えば高分子合成では、私は仕事でラジカル重合をメインで進めているので

 ・アニオン重合
 ・カチオン重合
 ・乳化重合

等に関しては「勉強しなくちゃいけないな」と感じつつ、つい後回しにしていて手つかずでした。
そのため学会で理解できない話が多く、損をしていました。

しかしこの教科書では、上記の重合法が漏れなく載っていました。
なので流れで勉強することができて、概念を身につけることができました。

網羅的かつ要所をしっかり押さえている教科書が一冊あれば、知らない分野をかき集める労力と心細さを解消できます。


②各章が専門書並みの濃度

①で紹介した4章は、各章が約100ページあります。
この本の1章100ページは、500ページを下らない専門書に匹敵する内容の濃さです。

私自身、各章を読み進めるごとに、加速度的に高分子への理解が深まっていきました。
また原理だけでなく、物性を確かめるための試験に関しても情報が多いです。
職場でやっている実験に当てはめて考えやすいと感じました。

この本は洋書ですが、使われている英語は難しい言い回しなど無く、サクサク読めます。
そのため、現象を一連のイメージとして掴みやすい。
私は10分に1ページ程度のペースで読み進めることができました。
忙しい社会人でも、学習しやすいようになっています。


③現象を成り立ちから理解しやすい

式は必ず「前提となる考え方」から詳しく説明しています。
式の導出過程が極めて丁寧です。

高度な参考書にありがちな「いきなり飛ぶ」ことがなく、置いてきぼりを食らうことはありませんでした。
そして図が多用されており、イメージを抱きやすいのも親切です。



④寄り道をして理系的素養を深めやすい

各章をしっかり理解するには、数学の考え方が必須でした。
物理の概念も必要でした。
とりわけ構造の同定(characterization)の章では、基本的な数学と物理を多用しました。

 ・鎖のねじれを三角関数を用いて表す
 ・分子の大きさを測るのに、光の散乱を理解する
 ・相分離を考えるに当たって偏微分を利用する

これらを解く中で「この公式はこのようにして使うのか」という実践知を得ることができました。
やっているときはヒーヒー言いましたが、数学の詰め込み知識を使える知識へと変換できたように感じます。

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高分子科学は日本の製造業の柱の1つです。
プラスチックの袋・自動車のバンパー・ペットボトル…
石油製品は当分はメジャーであり続けると、この業界にいて痛感しています。

なので、専門外の方でも高分子科学に携わることになる可能性は高いです。
そうなったとき、勉強の第一歩として、ぜひ「Introduction to Polymers」を使ってみてください。
勉強が大きく捗ります。