Twitter(意地でもXとは言わない)短距離界隈において、ある程度知名度がある考え方の1つに「全力走を繰り返せばこれまでの限界を超えて速くなれる」というものがある。
名は伏せるが、練習は全力走だけで人生初の10秒台に突入 & 40代の今も10秒台で走るレジェンドの方がいらっしゃる。
また、半年ほど前には「50m全力走3本を週5で繰り返したら、クラス1の鈍足から11秒台になった」というアカウントが出現した。
そして複数のブログに「短距離走のコアは全力を出すこと。全力走を惜しむな」という旨の意見が記載されていて、これらの例に僕の心は強く動かされた。

今現在、僕の脚は途轍もなく遅い。
どの程度かというと、100mを全力で走っても16秒台に乗るかどうか...というレベルである。
原因は、これまで身体を酷使しすぎて筋組織の柔軟性がほぼゼロになってしまったこと、そして昨年頃からの発達障害の悪化による摂食障害(拒食・偏食)が祟り、まともに短距離を走れる身体ではなくなってしまったこと。

しかし今なお、僕は速く走りたい。
身体のベース(筋組織の柔軟性)は、専門家による施術を定期的に受けている。
(そして精神面は、様々な人の支えと僅かながらの独力の努力の甲斐あって、徐々に、しかし確実に上向いてきている)。

そんな中僕が選んだのが、冒頭で述べた全力走スタイルの練習だ。
「僕にもそのサクセスストーリーが当てはまってくれるのか?」という純粋な興味。
その可能性を見てみたかったのだ。

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具体的な内容に移る。
以下の練習を行った。

・実施期間:2025年4月23日~2025年10月10日
・練習内容:60m×4(セット間:7~10分)
・頻度:週3回

早朝、アスファルト、ランシュー、w-upは流し中心に5~10本、本メニュー後にプライオ(バウンディング、ハードルジャンプ)を実施...など条件を述べれば終わりがないが、ひとまずここでは省略。
「これまで自分が馴染みのある練習環境の中で、メインメニューを全力走にシフトしたらどうなるか」という観点で解析と考察を試みることにする。

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まずは結果から。
60m全力走4本のタイムの推移は以下のグラフの通りである。

図1
(きちんと見えてますか?見えていなかったらコメントくださいですm(__)m)

タイムの推移の傾向としては
・最初の2ヶ月はタイムを大幅に更新
・続く2ヶ月はタイムが微減
・最後の2ヶ月は伸びどまり

となった。

以下、最初の2ヶ月を期間①、続く2ヶ月を期間②、最後の2ヶ月を期間③として、その間に感じた変化を主観ベースで記載する。

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〇期間①
全力走を始めて最初の2週間は、走るたびにタイムが遅くなっていった。
主観的なキレややる気といった要素も軒並み低下傾向にあり、正直練習の意義を疑った時期だった。
そして身体の回復も遅くなり、身体の奥に居座る重怠い疲労感を常に感じるようになった。

しかし2週間を過ぎたころから、タイムが出るようになってきた。
キレが徐々に復活し、全力走後に感じる疲労感・ダメージ感はみるみる下がっていった。
(↑で注意したいのは、下がったのはあくまで『感』であり、実際の疲労・ダメージへのキャパが向上したのは期間③に入ってからだった)。

この期間は「故障しないか?」という身体面への不安と、「やりたくないな?」という精神面への不安の2つが重なり、綱渡り状態だった。
特に最初の2週間は、心身ともに適応初期であり、焦って結論を出してはいけなかったのだと思う。
「今はどう転ぶか分からないけど、タイムは気にせずとりあえず続けてみるか」くらいのおおらかな気持ちが必須だと思う。


〇期間②
全力走を2ヶ月も続けていると、なんとなく勘所が掴めてきて、身体操作に気を配る余裕も出てくるようになった。
期間①で感じた実施に関する種々の疑問を、調査・ヒアリング→実行で1つずつ消していき、大きな疑問がようやくほぼ解決したのがこの時期だった。

この時期で一番大きな収穫は「全力を出して走る『型』を脳に焼き付けることができたこと」だと思っている。
例えば100mを全力で走る時でも、「60m全力走ではこんな感じで力を出そうとしていたよな」というように、60m全力走時の感覚が身体と心の鋳型となり、他の局面にも流用できるようになった。
この鋳型の効力は、長い距離にも徐々に適用できるようになり、最初は80m程度が限界だったのが、期間③の終盤では120mを超えても維持できるようになっていた。

練習に対するメンタル・そして毎回の練習に耐えうるフィジカル、これらもようやく揃うようになってきて、いつの間にか"綱渡り感"は消失していた。
タイムの伸び幅こそ微増だったが、このペースで伸びるのではないかという希望と、全力走でうまく流れに乗れた(乗り込みがうまくいった?)時の快感があって、モチベーションは比較的高く保てていた。


〇期間③
しかし開始4ヶ月目に入った頃から、明確にタイムが出なくなってきた。
主観的には「明らかにラクをしてしまっている。そしてタイムが出ない。もっと前みたいにエンジンをふかさないといけないのに、ストッパーがかかっているかのようになぜかそれができない」といった感じ。
神経系へのブロックが強固に固まりつつあるのを日々実感するようになった。
皮肉にも↑の出し惜しみ?のおかげで、練習後の疲労・ダメージは軽くなっていき、筋組織の状態はこの頃が一番良くなっていた。

全力走そのものに100%を注げなくなってきた。
身体が刺激を予測してしまい、その予測強度に合わせて実走していく...という感覚で、挑戦ではなく生存方向に舵が切られていた。

↑の神経系へのブロック・守りに入った姿勢は、自分の意志だけでは対処できなかった。
これを突き崩すには、別方面からの刺激がどうしても必要だった...と、今振り返ると強く感じる。
練習を一定の型に嵌め込むのは一時的にはアリだが、それを長期間(生涯)続けていっても、凡人は伸び悩むだけという気付きを得ることができた。

そしてダメージの蓄積が限界地を超えたのか、10月10日の全力走の後から足の甲が痛くなり、結局走れなくなってしまった。
(症状としては『筋組織の軽い筋断裂』とのこと。使い過ぎで柔軟性が完全になくなりメカニカルストレスを吸収できなくなったことが原因との診察結果だった)。

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次に、僕なりの考察を述べる。

以上の通り、僕の場合は約2ヶ月ごとに転機が訪れ、徐々に伸びなくなっていった。
この原因を自身の肌感覚から述べたい。

まず全力走の効能だが、一言で表すと「今の自分が体現できる走り方(≒フォーム)の中で実現できる最高タイムまで力を引き出せるが、骨格となるフォームそのものはほぼ改善しない」に集約すると感じている。

本当にざっくりとした理解だが、速さ≒生理学×力学であり、生理学≒筋出力、力学≒フォームと捉えている。
全力走がアプローチできるのは主に生理学、すなわち筋出力側であり、力学≒フォームへの寄与率は低い。
肌感では筋出力の改善効果が9割で、フォームの改善効果は1割を切るところだろうか。

イメージで表すと、自転車を漕ぐ回転数=筋出力であり、タイヤ径=フォーム。
僕の場合、三輪車をめいいっぱい漕いで出せるスピードまでは達したが、三輪車の小さいタイヤ径では漕いだ力を移動距離に変換するのが難しくなった。
ここがボトルネックだったのだと思う。

なので次にやるべきだったのは、タイヤ径を大きくすること、即ち短距離に則したフォームで走れるようになること、だったと考えている。
前述した通り走りは力学でもあり、高い点から地面を踏みにいった方が強い力をもらえる。
地面反力を適切に受け取るには、体軸は1本の棒であるべきだし、脚を素早く前に引き付けなければ足を高く上げる時間を稼げない。
↑のような云々種々の機構を、今の僕は殆ど体現できていない。
今後はこの経験知を活かし、フォームの改善に全振りしようかと考えている。
(まずはケガを治してから、ではあるが)

...思うに冒頭のレジェンドが全力走で10秒台に到達できたのは、元々経験者で走り込んでいたため、走りのフォームが10秒台を出せる閾値を突破していたのだろうと解釈している。
それが全力走で引き出され、一気に「今の自己が出せる最大値」まで出力が上がり、タイムが向上したと。
そして2例目の50m全力走アカウントのお方も、伸びは最初の数ヶ月で低下し、11秒7以降はどれだけやってもタイムが縮まらなかった、と後述している。

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最後にまとめ。
今回の全力走の継続経験で、僕の肉体/精神が弾き出した傾向は以下の通りだった。

・全力走は主に筋出力を引き出し、フォーム改善にはほぼ寄与しない。
・全力走の恩恵がデメリットを上回るのは最初の3~4ヶ月程度。
・伸び悩みが1ヶ月以上続く場合は、別方面からのテコ入れが必要。

このn=1の知見が、全力走を導入したいと考えているお方の参考になれば幸いである。