僕が心身を壊して休職した原因の1つに「研究開発者の自由度を使いこなせなかった」がある

僕が心身を壊す前に転属した部署は、ユーザー絡みの案件が少なく、どちらかというと仕事がなくて手持無沙汰な感があった。
逆に言うと新規案件を研究側から提案する必要があり、僕が放り込まれたのも提案力?を期待されてのことだった。

だが僕は、新しい案件を創る苦しさに耐えられなかった。
僕なりに最初の数年は、今何が求められているのか推測し、市場を調べたり最新の研究事例を調べたりして、「○○をすべきである」という提案書を作り続けた。
だが僕の上司はそれを見ても、細かな誤字脱字のチェック訂正はするが、肝心の「じゃあこれをやるか!」という意思決定は全くしなかった。
そして決まって言うのが「現場が渋る。上層部が渋る。本部長が渋る」

新しい案件を創るために、何をどう進めていいか、僕一人では全く分からなかった。
誰もヒントの1つもくれないまま、闇雲に手足を動かしては空振りする。そんな中で僕は徐々に蝕まれていった。
そして仕事に熱意を見出せなくなり、それが大きなストレスとなり、心身の崩壊につながった。

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この体験から分かったのは、「自分から課題を見つけて自由に考えてタネを作ることが出来るのは、ほんの一握り=0.1%の天才だけ」という事実だった。
少なくとも僕にはその才能はなかった。

そしてタネの作り方を知っている人のそばにいないといけない。
例えば、報告書を提出した時に「この報告書は○○部長に提出すべきだ」とルートを示してくれる、あるいは「○○部長に直接送るのは敷居が高いから、僕が間を取り持とう」と言ってくれるような上司。

そういった面では、持って生まれた(もしくはこれまでの人生で磨き上げた)素質と、いい人材との巡り合わせ、この2つが必須となってくる。
少なくとも、言われたことを100%こなすのが得意だし好きだと自負している研究員が、上司の顔色を窺うことが得意で大好きな上司の下に就いてしまったら、新しいタネなんて作りようがなくなる。

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では、「天才でない=99.9%の凡人側」と自負する人たちはどうすればいいか。
僕が発見したのは、「振ってきた課題だけはプロ意識を持って受け持つ」というスタンスだ。

企業の職場である以上、多かれ少なかれ何かは仕事が振ってくる。
さすがに1週間何も仕事の指示なし、はないだろう。
その振ってきた仕事=自分に任された仕事、だけは、とことん完成度を高めてやる、という姿勢だ。

普通の人であれば、この「振ってきた仕事だけはとことん完成度を高める」だけで1日が終わる。
そしてその過程で色んな発見をし、それが積もり積もって部署のためになる。

そして一番大事なことは、そうしないと死ぬ、ということ。
多くの企業の研究者は、単なるサラリーマンだ。
自分から考えてタネを作ることができる「才能の持ち主」は、そもそもいないか、いてもその能力をこれまで磨けてこなかった人が大半だと考える。
なので、「空いた時間で自分のしたい研究を考えて、それを事業化まで持っていく」なんて夢物語はひとまず脇に置いておき、サラリーマンらしく目の前の仕事に邁進すべきだ。

そうしないと精神が死ぬ。僕は何度でもこの主張を繰り返す。僕みたいになってほしくないから。