この前、研究所長との人事面談があった。
内容は人事希望で、異動したい要望があれば聞き入れる...といったものだった。
僕はその面談で、知財部への異動を申し出た。

これまで僕は、ずっとこの研究所にいたいと言っていて、その希望は幸運にも聞き入れられ続けてきた。
ここに留まりたかった1番の理由は、今の勤務地がある場所が自分にとって住みやすいからだ。
僕は自律神経を患っているが、この研究所があるのは準地方都市レベルの「やや田舎」で、すぐ近くに山があり海があり、スーパーには地物の野菜と魚が並び、車も人も少ないため、身体に障ることが少なかった。
一方で、東京に出ると、人混みの多さとコンクリートジャングルとで、すぐに身体を壊していた。
2泊3日の出張では、毎回翌日は1日住寝たきり、まさに「2吐く3日」だった。
こうした事情があって(他にも親の介護など色々あるのだが)、僕は今の研究所に居続けてきた。

...その一方で、仕事内容に関しては「もっと自分に合う仕事がある」と半ば確信していた。
今の仕事もそこそこ楽しいし、そこそこやりがいがある。
しかし、あくまで「そこそこ」レベル。
自分の能力のうち、長所は持て余し、かつ短所は足りなすぎる...そうした感覚をずっと抱いていた。

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では、ついに異動を申し出ることにした原因、背中を押したものはなんだったのか。
詳しくは下記に示すが、正と負の2つの要因があった。

正の要因:知財部からのオファー

1ヶ月ほど前に東京に出張した際、本社の知財部の部長さんが直々に声をかけてきた。
「何事か?」と身構えていると、「1時間ほど取れないか?面談をしたい」とのこと。
出張自体は全くの別件だったので、なんとか時間を取って面談した。
その際に「知財部の仕事は○○なんだけど、興味ある?」「△△とか××とか、こういった仕事をやってみないか?」と押しに押された。
要は非公式なオファーがあった(と僕は解釈した)。

僕自身、特許作成は得意分野で、入社1年目から関わらせてもらい、知財部とも交流を密にしていた。
それが部長さんの耳にも常々届いていて、今回の面談に至った...という。
僕は常々、「求められている場所で頑張りたい」と思っていて、強く心を動かされた。

しかしこのオファーだけでは、僕は異動願いまで踏み切れなかった(だからオファー後の1ヶ月間は何も動かなかったわけで)。
やはり次に話す「負の側面」の影響は大きい。


負の側面:マネジメント業務に壊滅的に向いていなかった

僕は1人ベースの実務能力はあるが、協調性が絶望的に足りない。
その状態でこの研究所に居続けると、将来必ず苦しむ。
人事面談で、研究所長からそう宣言された。

僕がこれまで配信してきた「仕事術()」は、あくまで研究開発を上手く進めるための技法であり、マネジメント業務ではむしろ害悪となりうる。
僕がしてきた内容は「いかに自分の力を引き出せるか、効率よく仕事ができるか」にフォーカスしたものだ。

しかしマネジメント業務は、極論すれば自分1人の効率100%よりも、周囲の効率を80%まで高めるのが仕事だ
プレイヤーの本質は「攻める」なのに対し、マネージャーの本質は「耐える」だと僕は考えている。
例えば、散歩した方が自身の効率は高まるとしても、席にじっと座っているのがマネージャーの仕事だ。
(少なくとも当研究所ではそうだ)

僕はこの「マネジメント業務」への転換に耐えることが出来なかった。
自身の仕事効率が下がるのが肌で感じられる現実に拒否反応を示し続けた。

元々、「君はマネジメントには向いていないね」という評価だったし、自分自身「管理職にはなりたくない」とずっと思っていた。
一度は管理職ルートを外れること(降給、降格)も考えたが、当時の研究所長に「やめろ、人生を棒に振るな」と諭されて怖くなり、なんとなく今のポジションに甘えてきた。

...しかしこのままでは、将来苦しむ。今の研究所長からハッキリと宣言された。
この研究所は、総合職は例外なく管理職へ進む。プレーヤーのままでいることは許されない。
その環境では、マネジメント業務に向いてない僕はとりわけ苦労するだろう。
一方で、知財部は管理職も実務をこなしている(知財部のほぼ全員が管理職...というこれまた凄い構成)。
知財部であれば、生涯プレイヤー側でい続けることができそうで、少なくとも今の研究所よりはマネジメント側から離れたところに位置できる。
「このままなんとなくでここに居続けていることは未来への負債を重ねているんじゃないか?負債を返すなら今しかないんじゃないか?」と強く思った。

今思うと、↑の2つの後押しが連続したおかげで、ようやく前に1歩踏み出せたのかな...と。

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僕は入社してこの研究所に配属されて10年経ったが、僕の本質は変わらなかった...と実感している。
求められている能力が変わってきたことを察知はしていたが、本腰を入れて変わろうとはしなかった。

否、変えたくなかった。
自分が自分でなくなる、と感じたからだ。

...「本腰を入れずに」変わろう、としたことはあった。
上司との面談などで「君は将来管理職になるのだから、そこに向けてマネジメントに励んでほしい」と言われた時。
有り体に言えば「お前もっと周りを見れるようになれよ。協調性を持てよ」と言われ、「このままではマズイな。上司が求めていることだし、協調性を強めた方がいいな」と思い、努力したことは幾度となくあった。

しかし、続かなかった。
周りに合わせることそれ自体が苦痛で仕方がなく、途方もない意志の力を必要とした。
イメージでは、限界ギリギリ100の労力をかけて、ようやく30点とか40点を取れるレベル。
普通の人は苦痛なしにできること(人を待つ、やっているのを見守る...)が、僕はありったけの集中力をかき集めてようやくできる。そんな感じだった。

逆に、スムースに進行させることに関しては、「僕のやっていることがなんで皆できないの?」と不思議に思うことが多々あった。
他にも、文書を完成させる早さ、実験でデータを集める早さなど、1人でできる作業は努力せずとも人一倍できたし、
情報を収集してまとめることに関しても、息をするように着々とこなすことができ、上司からも太鼓判を頂いていた。

こうした事情を自分なりに分析し、「僕のフィールドはプレイヤー側にあるんじゃないか。マネジメントは得意な人に投げればいいんじゃないか」という考えに至った。

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...10年かけても人の本質は変わらない...などと言うつもりは毛頭ない。
僕が言いたいのは、「もし変わろうと思うのなら、それ以外の全てを犠牲にして、クソ長い期間をかけて治す覚悟が必要だ」ということ。

そしてもう1つ、古い体質の日本企業(特にメーカー)にありがちな「総合職=将来は管理職」という考えと体制は、本当に皆を幸せにするのか、ということ。
総合職が一生プレイヤー側でいられる選択もできる方が、間違いなく生産性も上がるし、従業員の幸せにも直結するのでは、と僕は思う。
少なくとも今の当社で↑は相当に困難だ。

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「私は一生プレイヤー側で働いていたい」という方に関しては、「思いは働いているうちに変わるから、管理職コースに行けるJTCもおススメだよ」と伝えたい。

一方で、「プレイヤー側の方が間違いなく向いている」と自覚している方に関しては、管理職コースが半ば固定されがちなJTCはおススメしない。

思いは変わるが素質は変わらない。今回の出来事で僕はそう学んだからだ。

将来を選ぶ方々の一助となれば幸いである。

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P.S. 今は自律神経が悪く東京の環境に耐えられそうもないため、まずは自律神経を治してから異動...という線でまとまりました。
実際の異動はおそらく1~2年のうちになるかと思われます。