僕は今、食品も扱う部署に在籍している。
今やっている検討で、これまでは非食品分野がターゲットだったのだが、今度から食品分野も対応していこう...ということになった。
しかし今使っている原料は非食品用途のため、新たに食品対応した原料を入手する必要が出てきた。
そこで「食品対応」に関して何をすればいいのか調べることになったのだが、そこで大きな壁となったのが法律だ。

食品は極めてセンシティブな分野のため、食品を取扱するのに関連する法律は非常に多岐にわたる。
食品衛生法、食品表示法、食品安全基本法...などなど。
また、食品対応には専用の設備が必要なのだが、GMPやHACCPなど、取得しておかないといけない認証がゴマンとある。
そして僕らがしなければいけないことは、↑の法律・認証の中から、「今のテーマを事業化するうえで押さえておかないといけないのはどれなのか」を正確に把握することだ。

この辺りは製造部や品質管理部の役割だろう...と思いきや、実はそうでもない。
食品分野は特に厳しいのもあるが、こういった法律・認証はスケールアップの試作段階から必須で押さえておかなくてはいけない。
例えば「今回1回ポッキリだから」といって、非食品用途の原料を食品対応した製造ラインに流すことは、絶対にNGだ。
なのでラボスケールからスケールアップする段階で(つまり我々R&Dが)、法的観点を網羅しておかなければならない。
そして、試作段階では大きな予算を動かせないのがまたキツイ。
なのでお金を払って法律の専門家に頼ることが難しく、大抵は現場ベースで対処しなければならない。

そしてこうした法律・認証の内容を正確に把握するには、どこかの段階で条文を原文のまま読む必要が出てくる。
あるテーマを深く理解しようとして文献を読み漁っていくと、必ずどこかで原著を読まなければならない段階に至る。それと同じだ。

この条文が非常に読みづらい。
まず文章が長ったらしいし、主語と述語がどこまで繋がっているのかも分かりにくい。
個人的に一番手間取ったのは「相当量を含むものは除く」の「相当量」とはどの範囲なのか、「○○が定められた場合は~」の「定める」は「定めてから直ち」に、なのか「定めてから時間がたってもいいのか」といった、語彙の解釈だった。

結局、法律関係に手を出してから1ヶ月強経つが、未だゴールは見えない。
今は条文を把握・理解しながら、試作先のOEM企業と協議を重ね、二人三脚で1つ1つ山を乗り越えている最中だ。

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このような経験は、前まで所属していた高分子関係の部署でも経験した。
その部署では、既存事業の製品のグレードアップをする中で、化審法リストへの新規登録の要否を判断せねばならなくなった。
詳細は割愛するが、化審法とは新たな化学物質を製造販売する際に、その化学物質をリストへ登録しなさい...という法律で、これを守らねば法律違反になるし、登録の手続きにはウン百万円もの費用が必要となり、煩雑な書類仕事がついてくる。

つまり、必要かどうか判断を間違えば、
・法律を犯して事業の存続を断ってしまう可能性があるし、
・100万円単位の予算を無駄遣いしてしまい、
・法務部などの他部署の仕事量をドカンと増やしてしまう
ことになる。責任は重大なのだ。

そしてここで言いたいことは「新規事業化の時だけでなく、既存事業で働く間も法務からは逃げられない」ということだ。
僕もまさか、化審法を研究開発が担当することになっているとは思ってもみなかった。
てっきり法務部が最初から最後まで面倒を見てくれるのかと思っていたが、実は法務部は実務(登録時の書類作成や各機関への手続きなど)がメインであり、こうした「判断」の部分は研究がやらねばならなかったのだ。

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今回僕が痛感したのは「研究開発で法務にきちんと取り組める/取り組んだことのある人材はほぼ皆無と考えていい」ということだ。
今回のような法務は、向き不向きが非常に大きい。

向いている人とは、
・どの法律・認証が該当するのか調査でき
・条文を読む意欲があり
・条文を正しく理解することができる
こうした人材であり、特殊な国語力が大きく左右すると感じた。
↑の人材はたいていが法務関係に就いてしまっており、理系の中の理系であるR&Dに在籍している可能性は非常に低い。

そして厄介なのが、こうした法務は逃れようと思ったらいくらでも逃げ道がある、ということだ。
極端な話、法務が必要な案件は引っ込めればいい。
また、法務が不要な既存の製品で対応したり、お金を払って専門家に依頼してもいい。
僕が化審法を手掛けた時は、周りに化審法対応を経験した人が1人もおらず、10年20年前に1回だけ経験した人(今は営業部に異動)に何度も話を聞きに行ったりした。

なので、法務が得意な人は、研究開発では極めて希少であり、かつ引く手があまただ。
面接官レベルの職位になると、こうした煩雑さと人材の少なさを理解されている方が殆どなので、面接では大きなアピールポイントになるだろう。
法律関係が得意な方は、ぜひとも最大限にアピールしてほしい。

また、法務を苦痛としている方も、できれば逃げずに立ち向かってほしい。
それが今いる場所、後進にとっての大きな財産となるはずである。