1週間前、前いた部署の後輩から、案件に関する相談を受けた。
僕は今の生物系の部署に異動して4ヶ月になる。それまでは丸8年間、ポリマー材料系の部署にいた。
その部署の中でもほぼ一貫して同じ技術(樹脂の変性)に携わらせてもらい、やっと材料の声を聴くことができるようになってきたかなー...というところで異動。
子供のころからずっと興味を持ち続けてきた生物系への転身は嬉しい反面、今まで培ってきた知見が無に帰すことへ勿体なさも感じていた。

話を元に戻す。
前いた部署の後輩から相談を受けた案件。なかなかに厄介だった。
トップシェアの大口顧客からの相談(というか要望)

・今まで使っていた樹脂の変性材料を使わずに、これまでを上回る性能を出してほしい
・同時に、使用時のハンドリングも改善してほしい
・期限は2ヶ月しかない
・人員は僅か2人

...研究開発に携わったことのある人であれば、↑がどれだけチャレンジングな(横暴ともいう)案件か分かると思う。

...とりあえず会議室に籠り、僕も後輩も必死に考えた。
その中で感じたのは「思考回路の復活」だった。
アイデアがどんどん出てくる。
変性材料の代替、性能の出し方、ハンドリングの解決方法...。

またアイデアを出すだけでなく、出てきたアイデアの削り方も、手前味噌ながら充実していた。
そのおかげで、2ヶ月しかない期限の中でどう選択と集中を進めるかまでプランニングできた。

会議室に入ってから出るまで3時間。あっという間だった。
後輩の「ありがとうございます!おかげで先が見えました」という言葉とほっとした顔を見て、一助になれた嬉しさと充実感を感じた。

これまで使ってきた思考の水路に、瞬く間に水が満ちていく不思議な感覚だった。

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この経験から実感したことは、「やり込んだ後に離れてみると、的確さを保ちつつ柔軟性の増した思考が展開できる」ということだ。

これは僕に限った話ではないと思う。
振り返ってみると、あれだけ思考を自由にぶん回せたのは、プレッシャーという縛りがなかったからだと思う。
僕はある種の部外者で「必ず成果を出さなくてはいけない」という状況から解き放たれていた。
失敗が脳裏によぎらない状況になると、思考に柔軟性が増すのではないか。

そしてもう1点は「一度構築できた思考回路は、そう簡単にはさび付かない」ということだ。
もちろん思考回路を放置しておくと、ある程度目詰まりはするし、スムースに回すにはある程度の圧が必要になる。
しかし逆を言うと、圧さえかかれば現役時と同程度、もしくはそれ以上の思考をすることも可能になると、今回の経験から学んだ。
今回の場合、「後輩の切羽詰まった顔」「会議室への籠り」あたりが圧になったのでは、と推測する。

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そしてこの経験を展開すると、「担当から外れたベテランには積極的に話を聞きに行くべき」という結論に至った。
現役だけでは柔軟性に富んだ思考が難しくなる。
それにベテランにとっても、思考回路を再通させて自己の案件に活かすいい機会になる。
気後れせず、達人には思い切って声をかけてみるのも一手だと思う。