僕は今扱っている素材に関して全くの未経験・未学習でこの研究所に飛び込んだ。
僕の学生時代の専攻は植物学と分子生物学。
それに対して、入社時の配属先は高分子・ポリマー材料を扱う研究室だった。
研修では扱う素材に関する基本的な化学は教わったものの、要した時間は合計して半日にも満たず、大学での膨大な学習時間と比較すると、ゴマ粒みたいなものだった。
そこから先は、当時の先輩2人に従って実験を進めたものの、その先輩方も地元採用の未経験者で、3人そろって「分かんねーな」と日々口にしていたものだった。
入社2年目には↑の先輩方が異動し、そこから先は実質一人で各案件をこなしていった。
思い返せば入社してからの9年間、その殆どを独学でやり通してきた。ことになる。
そして僕の周りの同期や後輩たちも、チーム間の異動がしょっちゅうだったり、僕と同様に知識と経験を持ち合わせた先人がいなかったりで、独学で何とか切り抜けている人が非常に多い。
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企業の研究開発では、独学で進めなければいけないケースがままある。
そのような場合、どうすれば望む結果が得られやすいのか。
僕が得た最適解(次善の策)は、「まずはとにかく手を動かす」だ。
目の前に見えている1つの課題を倒すことだけを考えて、とにかく実験をする。
イメージとしてはRPGのエンカウントに近く、現れた敵を1回1回時間をかけて倒して経験値を貯めていく、というもの。
いわゆる学校式(≒理想的)なやり方とは趣を異にする。
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学校的(理想的)なやり方は「まず全体を見渡す→必要な箇所に力を振り分ける」だ。
このやり方の方が最終的なピークの高さ(結果の大きさ)は大きくなる。
ただし全体を見渡せる眼が別途必要になる。
独学でない場合、指導者・上司・練達した先輩など、経験者が眼の役を担う。
独学の場合、この「眼」が無い。
そのような場合、経験が浅い状態で全体を捉えようと頑張るのは逆効果になることが多い。
一因としては、書籍などの情報はある種均一で、重要度に応じたアクセントが読み取れないことが上げられる。
そうした重要度を読み取って俯瞰図に反映できるのは、かなりの経験を積んでからだ。
なので独学者の場合、目の前に見えている直近の課題をとにかく埋めていくのが遠回りのように見えて近道。と僕は考える。
目の前を開拓していくことで、全体像とまではいかずとも、部分的な俯瞰図を作成できるようにはなる。
そうして作った俯瞰図は、指導者が作ったものと比べると歪で稚拙に見えるが、自分にとって重要なポイントはきちんと押さえられており、実用面では引けを取らない。
最終的なピークの高さは、前述した「学校的(理想的)」なやり方に比べて低くなるが、凡人が秀でた結果を出すレベルでは、むしろ独学式の方がピークが高くなると考える。
学校的(理想的)なやり方は、一人でやろうとすると多大な労力が必要であり、結果が出始めるまでにリードタイムを要する。
なぜリードタイムが必要なのかというと、
・全体を正しく押さえた俯瞰図を入手し、
・その俯瞰図が示すルート通りに自分を動かす忍耐力を養い、
・力を振り分けた各ポイントが成熟して繋がるのを待つ
必要があるためだ。
独学式の場合、ある意味目の前の1体の敵を倒し続ければいいわけで、
・力を振り分ける必要もないし、
・俯瞰図が示すルートの型に自分をはめようとする必要もない。
念のために言っておくと、すべての条件が揃った場合、学校的(理想的)なやり方の方がいい結果が伴う。
しかし個人的には、↑のやり方は陸上で例えると100m10秒台に到達した選手が伸び続けるのに必要とするレベルであって、100m11秒切り程度では独学式の方が早く結果にたどり着ける(と感じているし考えている)。
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僕は完璧主義者なので、どうしても理想的なやり方を採用したくなるが、そういう時に限って結果が出ない。
企業の研究開発では(それ以外の大半の事柄でも)、期限内に結果を出すことが求められる。
ピークの大きさだけで結果を論ずることはできず、結果が出るまでのリードタイムの短さも考える必要がある。
全体を正しく俯瞰できる能力は今の自分には無いと謙虚になって、目の前の課題を1つ1つ倒すことに専念しようと思う。
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