僕は就活の時、研究開発職1本に絞っていた。
理由は単純で「研究開発=高尚な仕事」だと思い込んでいたから。
ここで言う高尚とは、全て理詰めで考え、計画通りに無駄なく実験データを取る...という仕事の進め方的なイメージと、清潔なクリーンルーム内でスタイリッシュなデスクに座り最新のPC/実験機器を使う...という業務環境のイメージだ。
「汗にまみれて現場を往復する日々なんて考えられない!」と当時の自分は思っていた。
所属していたラボの環境が、比較的クリーンかつスタイリッシュだったため、企業の研究開発も全てそうだと思い込んでいた。
僕は無事に就活を終え、念願の研究開発職に就くことができた。
今の僕はどのような仕事をしているのか。
...毎日のようにヘルメットと重い安全靴を装着し、鉄骨むき出しの現場を往復している。
実験室の機器は、最新型どころか30年前のオンボロが未だに現役だ。
大型の実験機器は「付属棟」と呼ばれる建屋にあるのだが、スレート葺き・トタン葺きで、至る所が雨漏りしている。
夏場は熱がこもって暑い暑いだし、冬場は足先が凍りそうになり寒い寒い。
研究所本館ですら、コンクリの壁に亀裂が入って鉄骨が丸見えの所すらある。
おまけに黒電話が未だに現役。スタイリッシュとは???
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「研究開発=高尚」というイメージをさらに打ち砕いたのは、ともに働く同僚の存在だ。
研究所とはいえ大型機器を扱うので、現場作業員が必要になる。
そうした方々は現地採用(いわゆる高卒採用)で、研究所全体の約半分を占める。
高卒叩き上げの方々は、おしなべて荒々しい。
いい意味で言えば勢いがあるし、悪い意味で言えば単細胞。
今まで僕が接してこなかった空気に置かれ、入社したばかりのヒョロヒョロもやしっ子の自分は折れないことで必死だった。
当時の僕は「研究開発員はみな大卒・大学院卒!知的な会話が楽しめる!」と思い込んでいたので、中高の昼休みのようなバカ騒ぎの渦中に放り込まれる羽目になるのは予想外だった。
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このような環境で丸8年過ごした結果、「研究開発=高尚」という幻想は完膚なきまで打ち砕かれた。
ヘルメット被るのは当たり前だし、現場の往復でびっちゃびちゃに汗を流すのも当たり前。
「考えるよりまずはやってみろ」がスタンスになり、熟考(悪く言えば先例を探してできない理由をこねくり回す)することが殆どなくなった。
研究開発は、ものすごく泥臭い仕事だ。
土木作業みたいなことも平気でやるし、電気技師がやるような配線の付け替えも定常作業だ。
おそらく僕はこの環境に順応し、前よりも泥臭い人間になったのだと思う。
ただ、今の僕は、すごく快適で幸せを感じている。
文字通り手足を使って汗を流し、大雑把にコアを掴む考え方でとにかく動く。
頭で考えをこねくり回すのでは得られない一種の爽快さは、大学ラボ時代にはなかった。
おまけに、泥臭い動き方にチェンジしてからの方が、結果が自然と舞い込むようになってきた。
何か流れを掴めてきた...のかもしれない。
長々となってしまったが、要は
・研究開発は泥臭いお仕事だよ
・でもその泥臭さに浸かることで得られるものはとても大きいよ
ということを、研究開発を志す方々へ伝えたい。
コメント
コメント一覧 (3)
研究開発と一口に言ってもいろんなフェーズの開発がありますからね。
いわゆる配属ガチャでもっと基礎研究に充てられないと難しいですが、基礎研究の場所は予算と人員あまり割けないので大型は基礎寄りでは無くなってしまうのですかね。
コメントありがとうございます。
仰る通り、大型であっても実は基礎研究に予算を割く事ができない...という事案は多いです。特に昨今は先行きが不透明で、数年前まで経営が上向きだったのにいきなり赤字、という例もあり、予算縮小の流れは強くなる一方です。
しかし基礎研究自体のニーズはどこの部署も抱えているので、配属先で基礎寄りに携われるようアピールしていく...という戦略が一番現実的ではないかと感じています。
「考えるよりまずはやってみろ」は重要ですよね。理論通りにいくことはあまりなく、(量産スケールでの)実験の重要性を感じます。また同業他社との差別化も、こういった理論通りにいかない部分にあるかもしれないと感じます。
基礎研究は高尚かもしれませんが、成果が出にくいという辛さがありそうですよね、一発当てる以外は全部ハズレという。。。開発職のほうが成果を出しやすく、世の中に影響を与えている実感を得やすそうです。