この1ヶ月ほど、僕はサンプルの試作に腐心していた。
案件は前回話した某製品。
製品となる組成物自体は何とかできることが分かっていて、後は製品に含まれる有機溶剤を無くすだけ...という段階。
しかしこの無溶剤化が非常に厄介で、1ヶ月間手間取った。
何が厄介だったかというと、サンプル組成のブレが大きくなるという点だった。
今回メインとした製造機器は、非常に高性能なもの(以下『機器①』)で、無溶剤反応をするならまずはこの機器...というくらい信頼性も高い。
しかしこの機器①を使って有機溶剤を無くしてみると、問題点が浮上した。
反応の場となる有機溶剤中を無くすと、材料の混合物がうまく混ざらず、どうしても組成物内でマダラ状に分布するようになってしまったのだ。
機器の条件を色々と(30パターンくらい?)検討したが、結局改善はされなかった。
この機器①にこだわった理由は、製造現場に導入されている機器だからだ。
機器が無いことには製造できない。
なので開発の初期に考えることは、「ウチに今ある機器でどうにか作る手法を考えよう」というもの。
新しい機器を導入するにはお金も時間も手間もかかる。このハードルは想像以上に高い。
おまけに高性能 & 評判がいいというプラス面に惹きつけられ、上司も僕もこの機器①にこだわり続けた。
...しかし今回、検討の初期のまた初期の段階で、非常に簡素な機器を用いて、均一な組成物が安定して得られる...ということが分かっていた。
ただしその機器(以下『機器②』)は、以下2点の問題点を有していた。
・製造現場に機器が無い
・あまりに簡素なので魅力を感じなかった。
上司の意向は「どうせなら高性能の評判高い機器①で作りたい...」というのが本音だったようで、僕はその意見に振り回された。
しかしこの1ヶ月の検討を経て、「機器①で何とか作れそうだが、条件が少しでもズレるとモノができなくなる。かなりセンシティブなんじゃね?」と感じ始めた。
そして上司に相談したところ、「あ、無理なんだね」とアッサリした答えとともに、機器②で作る方針へチェンジした。
相談時間5分。あまりに突然の幕引きだった。
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多分上司の中では「ラクに作れること」が何よりのプライオリティだったのだろう。
研究開発では、実製造までの間に複数の段階を踏む。
だいたいが「ラボ(~1kg)」→「実証機(~100kg)」→「実製造機(~数t)」の3段階だと思う。
この各段階で、製法のすり合わせ(最適化)を行わなくてはいけない。
当たり前の事だが、ラボで使っている機器・実証機・実製造機の構造はそれぞれ異なっている。
構造自体が異なることもあるし、構造はなるべく似せていても、ギアの摩耗やバッフルの欠けなどが補修されないまま...といった状況も見られる。
そもそもどれだけ構造を似せても、物理法則の相似則を全て満たせるわけがないので、ラボ-実証機-実機間のズレを補正する作業は必須となる。
ここでいかにラクをできるかが大事だと、今回の経験で痛感した。
僕のケースだと、機器①を用いるとラボで作れないことはないが、その先の実証機で作るとなると、また1から条件をすり合わせないといけなくなりそうだった。
一方、機器②では均一な組成物を何度も得ていたので、その先の実証機→実機へのステップアップも順調に進むだろう...と予測できた。
研究開発において駒を先に進めるためにまず必要なのは「実機でラクに作ることができるかどうか」だと、今回学んだ。
ラボ→実証機→実機の各段階での製法すり合わせをいかにラクできるか。
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「ラクをしないと成果は出ない」。
どこかの自己啓発本のタイトルなのだが、今回の出来事で久々に思い出した。
複雑な工程を踏むと、確かにいいモノが作れた気分になる。
しかし、個人的/研究的な目線では「いいモノ」でも、製造的・営業的・品質的な目線で「いいモノ」なのかどうか。
そこをどこまで考えられるか...は、良い研究開発者に必須の素養の1つではないかと僕は思う。
そして、多数の関係部署の負担を軽減できうる1つの考え方が「ラクに作れるモノ/製法を取る」というもの。
この考え方は他の様々なことにも応用可能ではないか...とも考えている。
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