僕は今、複数の新規案件を手掛けている。
そのうちの1つにおいて、幸運にも試作品が良い性能を発揮してくれて、お客さんへの紹介ができそうなレベルに達することができた。

お客さんへの紹介となると、営業部の仲介が必須となる。
営業部は常日頃から「新しい市場を、新しい製品を!」と唱えている。
単純な僕は「今回の結果を営業部へ周知すれば、彼らも喜んでくれるだろうし、食いつきもいいだろう」と思い、試作品の性能のみを付記した技術資料を作って、営業部へ送付しようとした。

とりあえず資料を作成して、直属の上司にチェックをお願いした。
すると、その上司はその場で軽く読んだ後、僕をたしなめた。
「もっと営業部が理解しやすいように背景を盛り込め」「『顧客への紹介のお願い』なんて重すぎる。営業部が身構える」「既存ルートが使えない紹介の仕方になるので、向こうも攻め方に困るぞ」等々...。
要はこっちが「新しいモノができたぞ!こんな新しい市場が開拓できそうだぞ!」と意気込んでも、営業部には営業部の都合があるのだと。
上記のチェックを纏めると「もっと向こうの心理的負担を減らせるように、クッションを何重にも敷」ということだった。


思い返してみれば、過去のシーズ案件においても、営業部の腰は重かった。
僕が入社した年から携わったシーズ案件では、分子構造的にはとても面白い製品が作れたのだけど、あまりにも新奇すぎて、既存のお客さんの用途には適合しなかった。
そこで新規市場の開拓!...となるのだが、以下の2点が想像以上に大きなネックとなった。

・既存ルートでの紹介ができない。
・そもそも営業部側が、シーズ案件の技術と新規市場を知らない。

結局↑の2点に引っ張られて、新しいお客さんをキャッチすることができず、気づけばシーズ案件は検討中止=お蔵入りとなった。

未知のものに対する拒否感が出るのが人間の性。ましてやノルマが数字で厳密に定められ、既存市場を広げるので手いっぱいな営業部にとって、「性能はあります。でもどうやって売ったらいいのか分かりません」的なシーズ案件は、実質邪魔者でしかないのだと、この案件で僕は痛烈に思い知った。


...思い知った、はずだった。
しかし今回、「丸投げ」という暴挙に出てしまい(今回は上司のストップが入って事なきを得たが)、教訓が全く身についていないと感じた。
そう、こうした「相手の立場を考えて物事を伝えようとする」という一種の営業的な目線は、研究の現場に立っていると風化しやすく身につきにくい。
そしてこの力こそが、企業の研究開発で暗に求められている作法だと、僕は伝えたい。


人間、面白いと自分が感じたものに関しては、背中を押さずとも勝手に動くもの。
なので、面白そうなシーズ案件を営業に伝える際には、「どうすれば面白いと思ってもらえるか」をベースに資料を作るのが良い。

そもそも僕ら研究陣は、そのシーズ案件をなぜ「面白い」と捉えられているのか。
その理由の1つは、シーズ案件を取り巻く背景・シーズ案件を構成する技術を深いところまで理解していて、ライバルの製品と比べてどこがどう有利で、どのように土俵をひっくり返せるのか、イメージが湧くからだと思う。
なので、営業部にも同じ思いをしてもらうために、背景や技術の優位性をなるだけ分かりやすいように伝える努力をすべきだと、僕は学んだ。

少なくとも「新しいモノができました!さあこれを売ってください!」的なスタンスだと、営業部は反発する。
そして「新しいモノができました!どうやって売るか一緒に考えましょう!でもモノの勉強はそっちでやってね」でも、営業部は動いてくれない。
「新しいモノができました。それは○○という技術がキモで、△△の市場に××の点で切り込めます。まずは既存ルートを活かして□□社へ売り込みませんか?」まで言って、ようやく彼らは動いてくれる。

...ここまで書いて、僕自身は「なんだ、この分かりやすく伝える文書って、仕事の基本じゃん」と感じてしまった。
そう思った方々も多いだろう。
でも、客観的に見ると「当たり前じゃん」と感じることでも、思った以上にできていない。
少なくとも、僕は全くできていなかった。
これから少しずつ、シーズ案件を社内に周知する際の「作法」を身に着けていかねば...と思う。