ジョブローテーション。
数年毎に異なる部署に異動し、各所でスキルアップを重ねるというもの。
賛否両論の制度の1つだが、どちらかというと「賛」の意見が多いと思う。

このジョブローテーション制度、研究開発部門ではどうか。
僕個人の意見では「否」寄りである。

実際に当研究所で実際に起こってしまった事態は、生産性をことごとく否定するものだった。
具体的には「同じ検討を繰り返してしまう」というものだった。

以下にその概要を書いていく。


〇ジョブローテーションで若手が次々と入れ替わった結果
当社では、ジョブローテーションが制度化していて、おおよそ3~4年程度で他部署へ異動となってしまう。
僕が思う限りだが、研究開発においてジョブローテーションがもたらすメリットは、あまり無い。
読者の方々からすれば「他部署の知見から目覚ましいモノが生まれるかも」と想像されるかもしれないが、そんな例は起こっていない。
せっかく他部署から入ってきてくれた研究員の方々にしても、おしなべて、その場の雰囲気を伺っている間にそこのローカルなやり方・考え方に染まってしまう。

そして、せっかく育った人が抜けるというデメリットが、研究開発においてはズバぬけて大きいと僕は実感している。

どんなデメリットかというと、「過去に検討された課題を繰り返し検討してしまう」ということ。
車輪の再発明を地で行ってしまうのだ。
例えば僕の研究所では、添加剤を入れない製品の開発を進めているが、今からやろうとしている事柄が、尽く過去に検討された事だと判明した。
こうなってしまう一番の要因は「過去に『それをやった』とピンと来る古株の方がいない」ということだと感じた。
(そして今も、『車輪の再発明になるんじゃないか?』と疑念を持つ案件を進めている最中である)


〇知見が根付かない
厄介な点は、「過去に検討された課題」の「過去」がそれなりに昔だということだ。
5年10年前の検討になってくると、若手が抜ける周期よりも長いため、当時を知っている人が皆無になってしまう。

加えて、そんな昔の検討を掘り起こしてカバーするのは、業務の負担上難しい。
今はどこもかしこも効率化の流れで「残業ナシ・やる事絞れ」と言われる。
ギュウギュウ詰めになった1日の中では、緊急性の高い業務(明日の打ち合わせの資料作成とか、3日後の会議の部屋の予約とか)に目が行ってしまい、検討の質を高める下調べまでなかなか手が回らない。

しかも、昔の検討のみをピンポイントで掘り起こすのはほぼ不可能で、まずはそれまでに行った検討を1つずつ確認していかねばならない。
そうしないと、大事な要点を見落としてしまう。
効率化で視野が狭まった研究者にとって、そうしたtotalの掘り起こし作業は「重要性は高いが緊急性は低い」と見えてしまい、後回しにしてしまう。

そして大事だと感じている点は「当時を知っている人が『それなりにたくさん』いる」ということだ。
古株の方が1人いたとしても、上記の効率化を追い求めた末の忙しさが蔓延る中では、その人自体が忙しく、知見を聞き出すことができない。
少なくとも2~3人に1人くらいは古株の方がいてほしい...と僕は切望している。


〇研究所に限っては、どっしり腰を据えるキャリアプランの方がいいかもしれない
上記の問題点は、多かれ少なかれどこの研究所でも問題になっていると想像できる。
そして問題になっている以上、どっしり腰を据えて臨みたい(要は転職やジョブローテーションを望まず、研究開発(およびその周辺部署)でずっと働きたい)人材が望まれており、そうした希望も上層部には届いているのではないかとも。

本音と建て前は違う。
たとえ企業側が「転職OK、部署の渡り歩き歓迎!」と明示していたとしても、どこかで「この会社、この部署でずっと働いてほしい」という本音があるはずだ。
少なくとも研究開発はそうしたニーズがあって、しかも満たされていないんじゃないか...とこれまでの経験から僕は感じている。

研究所に配属されて、いい働きをしたいのであれば、どっしり腰を据えるキャリアプランを前面に押し出してみてもいいかもしれない。