幸運なことに、僕のOJTリーダーはとてつもなく仕事がデキる人だった
特に研究系の業務のパフォーマンスが凄まじく、「神」なんて呼ばれたりしていた。
仮にYさんとしておこう。
そんな神のYさんから僕は何を習ったか。
僕は「効率的な仕事の回し方」だったり「少ない手数で実験を行うコツ」だったり、そういう仕事術的なことを期待していた。
しかしYさんが僕に教えたことは「実験は丁寧にやる事」だった。
・フラスコは真っすぐセッティングする
・投入口の蓋は転がらないように逆さ立てして置いておく
・外気が入らないよう、隙間にはシールテープをしっかり巻く
・どんなに安定した反応の合成でも、反応中はできるだけ頻繁に様子を見に行く
・器具は丁寧に洗い、仕上げ拭きまでやりきる
...などなど。
当時の僕は、上記の教えに拍子抜けするとともに、「Yさんがデキる人なのは、他の所に理由があるんだろう」と思い、Yさんから仕事術を盗む方向へ走ってしまった。
しかし、今考えると、教えてもらった「実験を丁寧に」こそが、Yさんがデキる人だった理由だった。
当時の僕が混乱したのも無理はない。
どの本にも、どのwebページにも、どの動画サイトにも「『実験を丁寧にやる』が仕事上達のコツだ!」なんて情報は無かった。
それどころか、「仕事はなるべく手数を少なく」「17時退社を当たり前に考えろ」といった、一見心理のように見えて実は小手先のテクニックでしかないやり方ばかり紹介されていた。
本当に大事なものは、もっと身近にあったのだ。
なぜ「実験を丁寧にやる」ことが仕事上達に繋がるのか。
僕のアホな頭では、まだその全容を掴みきれておらず、明確な説明はできない。
しかし、いくつか感じたことはあった。
・目の前のやる事に対して真摯に向き合うことで、別のことにも真摯に向き合う土壌ができる
・モノを丁寧に扱うことで、他者への気配りが自然とできるようになってくる
仕事を8年やってきて強く感じるのは、「気配り、配慮、思いやり」といった温かい心こそが、仕事の本質ではないかということだ。
効率云々は、その本質の氷山の一角でしかなく、本質を身に着けていったら自然と身に付くものだと考えている。
なぜならば、僕の回りのデキる人は、総じてどこかで「温かい心」の存在を強く感じさせる人だからだ。
温かい心の発露の仕方は人それぞれだし、発露しなくとも内に存在すればそれで十分だと思う。
丁寧な波長は外へ伝わり、自分が触れる物事となって返ってくる、とも感じている。
この辺りまで踏み込むとスピリチュアルな世界となってしまうので割愛するが、丁寧さは色んな意味で身に着けておいた方が良い。
(イチロー選手が野球道具の手入れを欠かさなかったり、室伏選手がハンマーに声掛けしながら磨いていたり、そうした実例もこれが理由なのかもしれない)
そして落とし穴なのは、そうした「本当に大事な事物」は、デキる人にとっては当たり前すぎてわざわざ話題にしないことだ。
話題にはしないが行動の1つ1つに所作となって発現する。
僕らにできることは、そうした所作を見取ることだ。
教えてもらうのを待っていると、とんでもない勘違いを犯して小手先のテクニックに走ってしまう。
そういう意味では、僕がYさんから丁寧さについて教えてもらったのはこの上ない幸運だった。
(そして教えてもらってなお勘違いルートに走った僕の頭の悪さも一級品と言える)
小手先のテクニックが活きるのは、確固とした基礎があってこそである。
そして、基礎が確固となるには5年10年のスパンで取り組む必要がある。
仕事における基礎とは「温かい心」であり、具体的に行う手法の1つとして「丁寧」がある。
少なくとも管理職になるまでは、小賢しく考えずに「丁寧に、真摯に、温かく」仕事に打ち込むのが、遠回りなようで一番の近道なのかもしれない。
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