先週、化学と生物(たしかこんなタイトルだったはず)という雑誌を読んでいると、興味深い記事に出会った。
研究者の生い立ちと日常を記すコーナー。その号ではとある企業の女性研究者が紹介されていた。
要約すると「若手時代から好奇心が旺盛で、毎日夜遅くまで残って実験していた」とのことだった。

その中身がまたすごかった。
曰く「『どうなってるんだろう、どうなるんだろう』という気持ちが強すぎて、頼まれもしない実験を何日も黙々とやったり、失敗したサンプルから何か出てこないかと植え継いだりした」「これらの実験は全て今で言う『サービス残業』だった」等々...

思わず目を疑った。「ほんとにいるの?こんなスーパー研究開発者」と。
その方は管理職まで昇進し、未だに熱意絶やさずバリバリ働いている...とのことだった。
(残業代という)対価を求めずに貴重な時間を研究へ割く熱意と、それを長年保ってこられた事に、二重で驚いた。
そして僕がこれまで積み上げてきたものが、ものすごくちっぽけな存在に思えた。


少なくとも僕の知る限りでは、そのような研究開発への熱意を持った方は僕の回りにはいない。
熱意を表に出していないだけかもしれない。しかしそういった類の熱意は自然と表出するものだとも感じている。

僕が常々教えられてきたのは「売れるモノを作れ」「残業はなるべく少なく」の2つだ。
10年以上かけて育ててきた技術も、売れなさそうだと判断され、切られた。残業規制はどんどん厳しくなって月5時間の残業で抑えろと言われ続けてきたし、PCで勤務表がチェックされるため、残業をつけずに残ること自体が難しくなった。
なので今や17時ダッシュが当たり前で、残業代が出れば残業するけれど、自分から残ることは皆無だ。

そして最大のネックが「研究対象に興味を持てきれない」という根本。
大学までの道のりは、基本的に自分で選べたので、何だかんだでその人の根本的な興味と結びついたものを学んでいたと思う。
しかし企業では、大学までの専攻と全く違う分野にぶち込まれることが多々ある。僕の同僚の大半(僕含めてほぼ全て)はそのパターンだ。
僕自身、一時期は興味を持とうと勉強に励んだつもりだったが、結局は興味が根付かず、開発物を単なる「モノ」としてしかみなせなくなっている。

かつて僕の下に付いた子が「サンプル発送する時は毎回『いってらっしゃい』と声をかけてから箱詰めする」と言っていた。研究者として大成するのはこういう子なんだなぁ...と感じたのを未だに思い出す。


しかしながら、僕みたいな「ライスワーク的研究開発スタイル」でも、何とかやっていけてしまっている。
少なくとも人並みに昇進はできたし、社内業務も滞りなく消化できている。

しかし日々「僕は研究開発者としての力量を上積みできていないんじゃないか?」と不安に襲われる。
(この不安はほぼ現実のものだと感じていて、もし今の会社をクビになったら、今と同じ待遇の研究職に就くことは99.99%不可能だと思う)

良く言えば「割り切りが上手い人も比較的成功しやすい研究の場」とも表現できる。
しかし、無能が力をつけるための数少ない手段「数を打つ」ができない/しようと思えない環境では、人並み以下の僕が社会をサバイブする力を養うのは相当に難しいと実感している。