当社では、新入社員が大学卒業時に取り組んでいた研究テーマを発表する機会がある。
昨日、ふとしたきっかけで、当時のスライドを紐解いてみた。
「あっ、こんな顕微鏡写真撮ったな」「このGFP蛍光は綺麗に映ったんだ」など、当時を思い出して懐かしい気分になった。
そして、当時の発表を思い出し、苦い思い出もよみがえってきた。
以下に、僕が入社時の修論発表で失敗した経験と、それを基にしたアドバイスを記す。
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〇最初のスライドは「自己紹介」にしよう
僕は入社時発表の際、トップバッターだった。修論発表のノリそのままで、一番最初から研究テーマの内容に切り込んでしまった。
ところが、僕の次の人の発表では、1枚目のスライドに自己紹介を入れていた。その次も、その次の次も、僕以外はみんな自己紹介をしてから内容に入っていった。
これが一番の「やらかし」だった。
聴衆の方々は、研究テーマを聞いてもらう聴衆であると同時に、これから長くやっていく仲間でもある。そんな方々に話をするには、まずは自分が何者なのか説明するのが筋だ。
経歴(出身地、出身大学)と趣味の2つもあれば十分だ。
〇分かりやすく分かりやすくかみ砕く
僕は大学院で植物生理学を専攻していたが、配属先は有機合成・高分子と、全くの畑違いだった。ある程度分かってもらえないのは覚悟していたが、発表5分で「あ、これ全く分かってもらえてないな」と感じてしまった。
僕は大学院での修論発表で使ったスライドをほぼ流用したのだけど、これがいけなかった。あと2~3段階は「分かりやすくかみ砕いて」すればよかった。
目安は「中学生でも理解できるレベル」。イントロに発表時間の半分程度は時間を割いて、理解してもらうように努めると良い。
〇全てのデータを載せなくてよい
僕は大4~M2の3年間でやった事を全部載せようとしてしまった。
その結果、発表時間30分に対してスライドが30枚...最初のイントロで分かってもらうだけの時間を取ることは当然できず、最初から最後までハイスピードでぶっ飛ばして発表した。
当然、皆さんの理解はついてこず...。
データを1から100mで全部載せる義務はどこにもない。一番面白いところだけを切り抜きでも全然OK。核心から遠い検討内容は丸々省く手もある。
そうして捻出した発表時間はイントロに注ぐと良い。
〇今後の予定も述べておく
「今後の予定は?」は、毎年必ず突っ込まれる定番の質問。
模範解答としては「直接扱ったテーマの帰結→研究室全体の帰結の流れで書く」ということ。最終的に何が明らかになりそうか?を明記すると良い。
〇研究の狙い(目的)をきちんと述べておく
僕はかねがね、自分なりの「この研究で将来できる事」を思い描いていたが、研究室全体としての目的は重視してこなかった。そのため、僕の思う目的と研究室のそれがズレていて、発表本番で「君の言う目的って、ちょっとしっくりこないよね」と痛烈なコメントを頂いてしまった。
研究室としての研究目的と、自分が思い描いているゴールをきちんと擦り合わせると良い。突飛さを出すと突っ込まれるので、出来ることとできない事をきちんと線引きしておこう。
自分なりに思い描いている事が突飛かどうかを判断するコツは「過去にも突っ込まれたことがあるかどうか」。就活で一度でも突っ込まれたのであれば、間違いなくどこかに角があると考えてよい。
○自分が持っている知見と経験が伝わるようにする。
・どんな機器を触ってきたか
・どんな試薬を扱ってきたか
・どんな検体(種属)を扱ってきたか
↑の3点は過不足なく伝えられるようにしたい。
というのも、企業の研究開発に携わる方々は、思っている以上に専門外のことを手がけており、基礎的な素養が培いきれていないパターンが非常に多い。
なので、企業の研究職は学生時に時間を掛けて取り組んできた人を「オブザーバー」として常に求めている。
企業の研究所には、人の数だけテーマが転がっている。
自分がそのテーマに該当する知見と経験を有していると分かると、そのテーマの担当者から「力を貸してくれ」と声がかかる可能性が高くなる。
色んなテーマに首を突っ込めるのは、研究職としてキャリアアップしていくうえで、極めて重要だと感じている。
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この修論発表、大学と企業の研究の違いを肌で感じることができるいい機会だったと思う。
培ってきた研究力を企業向けに最適化するためにも、「ズレをダイレクトに感じる」という機会は不可欠だと感じる。
そのために大事なのは、フィードバックをきちんと受け取り、次回へ反映させること。
新入社員の検討を祈ります。
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