先週、僕は新しくチーム間の横断プロジェクトを起案し、無事に採用となった。
室長に「是非やってほしい」と言われた瞬間は、確かに嬉しかった。
しかしその興奮が冷めると「自分なんかがプロジェクトの音頭をとれるのだろうか」という不安の波が押し寄せてきた。

自分がやると言った以上、責任者としてこなしていくしかない。
この1週間でこなせたのは以下の2点だ。

①論文から使えそうな実験系を見繕い、当社製品に合ったスキームに落とし込む
②①のスキームをもう1つのチームに伝え、密にやり取りをしながら修正を重ね、実験予定を組み、実際の作業に入る

これらをこなす中で、過去に僕なりに重ねた経験が役に立った。
特に①においては、入社2~3年目でのガリ勉が役に立った。

僕は修士卒でR&Dに就いたが、当時は博士卒に憧れ(と強い劣等感)を抱いており、それを原動力にひたすら勉強していた。
平日はアフター5からの1~2時間、休日は4~5時間程度は勉強していただろうか。
やっている人からすると決して多いとは言えない勉強量だったが、それなりに知識をつけることはできた。

当時の努力はなかなか結実せず、正直「勉強しても時間の無駄でしかなかった」と思っていたが、上述した論文を読み解く際に役に立ってくれた。

馴染みのない試薬の組合せが出てきた際に、かつて勉強した教科書に似た機構が載っていたことを思い出した。
そこから試薬がもたらすメカニズムを想定し、無事に処方に反映させることができた。

勉強していなかったら、おそらくこの解には到達できなかった。
適当に処方配合して失敗するか、メンバーから「この試薬はどういう目的で使ってるの?」と詰め寄られるかしていただろう。
「あの時勉強しておいてよかった」と心から実感した



プロジェクトの責任者になった瞬間から、自分の持っているあらゆる事物を利用できないかと考えるようになった。
早い話が、なりふり構ってはいられなくなった。
そして、今まで自分が蓄えてきたものの少なさに軽い絶望を覚えた。

特に人間関係をもっと練っておけばよかったと思っている。
嫌いな人との人間関係がその1つだ。
プロジェクトを説明する際、ある人と呼吸を合わせていかねばならなかったが、間合いが掴めきれずに非常に苦労した。
その時はつつがなく終えることができたが、居心地の悪さはおそらく双方が感じていた。
今後改善を図らねばいけない部分である。

責任者になると、自分の持っている財産が試される。
そしてその財産は、自ら強く意識して、年単位で積み重ねていかないと手に入らないものである。



僕は「財産=いざという時に使える緊急ブースター」を1つでも多く身にまとえ、とアドバイスしたい。
働き続ける(研究を続ける)以上、誰もが必ず何らかの責任者になるからだ。
そして、緊急ブースターとなり得る経験をつくるには、いくつかの条件があると思っている。
いくつか例示すると

・仕事に何らかの形で結び付いている(アフター5で仕事に関係ない資格の勉強をやたらめったら頑張っても、話のタネになる程度の影響しかない)
・年単位で積み重ねる(僕は自分の中に根付くまで2年はかかった。数ヶ月レベルでは薄っぺらすぎて役に立たなかった)
・危機感を持っている(成熟してからの心身に刻み込むには相応の適応刺激が必要)

自分の得意な方面から手を付けると、緊急ブースターが比較的手に入りやすい。
そしてもう1つのアドバイスとしては、ある程度の期間努力したからといって、絶対に次の手を緩めない事だ。
自分は「勉強して得た知識」という1つ目の財産を手に入れた段階である種満足してしまい、手を緩めてしまった。
今は英語を勉強しているが、危機感がないので、どこまで役に立つやら。

これを読んでいる方々が何かのプロジェクトの責任者となった時点で、少しでも後悔を感じないことを祈る。