この前の報告会で「この結果は、君が手伝ってた6年前の実験と同じか?」と聞かれて、僕は途方に暮れた。

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企業の研究はチームワークであり、先輩のテーマを手伝うことなど日常茶飯事だ。
とりわけ僕の研究所では「みんなで動く」という風潮が顕著だ。
新入社員が先輩の実験結果を自分なりに解釈し、記憶のポケットに入れておくことは、将来自分で実験系を組まねばならない時にかけがえのない情報基盤となるので、非常に重要だ。


6年前、僕は今よりも遥かに不真面目だった(今も大概だが)。
新人風を存分に吹かし、自分の仕事以外の事は全て「その場限りのお手伝い」と割り切っていた。
先輩が出した実験の結果を考察することもなければ、実験条件や試薬の種類に疑問を持つこともなかった。
人の実験は他人事としかとらえておらず、自分事にできていなかった。


そのツケを、僕は6年後に払う事になった。
僕が新規で手掛けることになった案件が、6年前の先輩の案件と酷似していた。
ターゲットとなる業界の分野が6年前と全く同じで、使う試薬や実験系も類似していた。

その案件の途中結果を報告する会議でのこと。
サンプルが無事にできたことを報告すると、上長から一言。

「この結果は、君が手伝っていた6年前の実験の結果と同じか?」

僕は思い出すことが出来ず、しどろもどろになってしまった。

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上長が言いたかったのは「同じ検討を繰り返して、無駄足を踏んでいないか?」ということだ。
企業の研究開発においては、担当者が変わるスパンが速い。
そのため、以前やった検討の結果が語り継がれにくく、同じ検討を繰り返してしまう傾向にある。

一方で、企業において重要視されるのは開発スピードとコストだ。
同じ検討を2回やることは、少なくとも数ヶ月の時間をロスし、チーム員の人件費(お給料)をドブに捨てる。
自分の仕事が進まなくなるだけではなく、他のチーム員や上司にも迷惑をかけてしまう。
無駄足を踏んではならないのだ。


こうしたデメリットを最小限に抑えるためにも、チーム員の実験結果を把握しておくことは、研究開発におけるマナーだと僕は思う。
加えて、過去の知見があれば、自分が主体となってテーマを推し進めなければならなくなった時(だいたい入社後5年)により良い一手を考案できる。
そうした際の頭のキレは、周囲のメンバーに伝わる。士気が上がる。

そして何より、チームの検討結果を把握→自分なりに落とし込んだ実験書を残す事で、似た領域の検討を再度やらねばならない誰かを助ける事ができる。
僕自身、上記の上司の問いを受けた後、先輩の残した実験書を発掘することができ、無事に上司に弁明することができた。
数年後の同僚を助けるためにも、自分に関わりのあるテーマの結果は押さえておくべきなのだ。


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新入社員の時から先輩の実験結果を逐一覚えるのは、負担が大きいかもしれない。
無理に全部覚えよとは言わないが、少しだけ頑張ってみるのは、将来への投資として非常に有効だと僕は思う。
先輩の実験を手伝う際、何か1つだけ覚えておく。それだけでいいのでやってみることをおススメしたい。