企業の研究開発におけるテーマ創出は「どんなニーズを満たすか」からスタートすべきだと痛感している。

僕らのチームは、最近新しいテーマを手掛けた。
詳しくは企業秘密なので言えないが、大雑把に言うと、接着力の高い樹脂の粘度を下げられないか、という検討だ
水あめレベルのベットベトの樹脂溶液を、それこそ水レベルまで低粘度化する。
ユーザーはそれだけ使いやすくなるし、歩留まりも減少する。
パッと見ると良い事づくめだ。

僕はこのテーマを課長から「こんな事もできそうだが、やってみないか?」とアイデアの形で受け取った。
接着力の高い樹脂自体は、他のチームの案件であり、僕は溶液化の過程を担当することになった。
僕は樹脂担当のチームから樹脂を分けてもらい、せっせと溶液化に邁進した。
約6ヶ月の試行錯誤の末、なんとか蜂蜜レベルまで低粘度化することに成功した。


先日、検討の結果を営業部に報告した。
「今までベットベトだった樹脂溶液の粘度を、蜂蜜レベルまで下げましたよ!」と。
きっと営業も喜んでくれるだろう。拡販してくれるだろう。と期待しながら。


しかし、僕の意に反して、営業サイドの反応は思った以上に薄かった。
「具体的にどのメーカーのどの課題を目的としているのか?」と聞かれ、「目的が不明確で、拡販するには頼りなさ過ぎる」と突っぱねられた。

更に困ったことに、直属の上司の係長も、このテーマに関して課長からほぼ何も聞かされていなかった。
要は課長の思いつき"だけ"で発進したテーマだったのだ。


僕はてっきり、課長が営業サイド&係長とそのあたりの話(≒テーマの標的)をしていたのかと思い込んでいた。
「上層部の間でコンセンサスが取れている」と誤解し、確認をロクに取らないまま、検討を始めてしまったのだ。

ここに落とし穴があった。
「今できていないことができるようになれば、それだけで価値がある!きっと営業も他チームも喜んでくれるはずだ」と思っていた。


しかし現実は違った。
営業サイドも樹脂担当のチームも、この「低粘度化した樹脂体」を持て余した。
喜んでくれるどころか、余計なお荷物を一つ増やしてしまった感がすごく、正直申し訳ない気持ちだ。


確かに、今までできないことができるようになる「技術のシード」作りは、企業の研究開発において必要不可欠だ。
しかし、シードは育ててこそ価値がある。
きちんと芽吹かせ、枝葉をつけさせて、人が欲しがる植物の形に仕立ててこそのシードだ。

そして、人が欲しがってくれるモノというのは、タネの段階で「欲しがる要素」を揃えておき、「購買意欲をそぐ要素」を含まないようにしておかねばならない、と今回の騒動で学んだ。

ここが、単なる思い付きで発進したテーマには不足しがちな点だ。
思い付きで出発したテーマは、より多くの「購買意欲をそぐ要素」が含まれている。
そしてその"不純物"ともいえる要素は、現在の系を成り立たせるのに重要な要素だったりする。
(僕のテーマの場合、粘度を下げるために減粘剤を使用した。その存在が、思った以上に良くなかったらしい)

一度成り立たせてしまった系から"不純物"だけを抜き取るのは、思った以上に難しい。
大抵は、不純物を抜くと系が崩壊してしまい、そこで検討をストップせざるを得ない。

...これを避けるには、テーマに着手する前段階で「どのようなニーズを満たす製品にするのか」を可能な限り明確にしておく必要がある。
今回の製品であれば、最初に「低粘度化は本当に望まれているのか?」「減粘剤を加えるデメリットを上回るメリットがあるのか?」など。
係長、課長、営業サイド...拡販に関与する全ての関係者と直接話をして、彼らの思惑を推し量り、彼らの意志疎通を促したうえで始めなくてはならない。


上層部は、下っ端が思っている以上に意思疎通が取れていない。
そして、その意思疎通を促すのも下っ端の仕事の1つだと、今回学んだ。
もし読者の方がこれから新規テーマを始めるのであれば、一度上司たちの間でコンセンサスが取れているのか、確認する事をおススメする。