僕は今の研究対象を好きだと感じた事は無い。


現在、僕は素材系の研究をしていて、樹脂を扱っている。

子どもの頃から、僕は生き物が好きだった。
高校の生物でバイオテクノロジーの面白さに目覚め、大学は農学部で生命科学を専攻した。
生き物の中でも植物をやりたいと思い、植物系のラボへ進み、植物を扱っている(と"表"では広告している)企業へ無事内定した...までは良かったが。

...気が付くと、植物とは全く関係のない石油化学系の部署に配属され、今日まで落ち延びている。


困ったことに、モノとしての樹脂に、全くといっていいほど心が躍らない。
樹脂溶液が二層分離しようがしていまいが、透明であろうが濁っていようが、どっちでもいいじゃん、といつも思う。
樹脂が持つ美しさに心惹かれた事は無く、どれもこれも同じ面したただのサンプルにしか見えない。

ただ、サンプルの間にみられる差異に対しては興味が湧いてくれる。
前回と今回で何がどう違ったのか。その違いを生んだのは何か。
そうした違いに向き合う時は比較的楽しいし、面白い。


僕が今の部署に勤めているのは、この研究所での業務内容がそこそこ肌に合っているからであり、僕の能力以上のお金をもらえるからであり、先に述べた「差異」の分析と改善がそこそこ楽しい(時もある)からだ。
決して「今扱っている対象が好きだから」ではないし、「○○を開発して世の中の人の役に立ちたい!」なんてたぎるモチベーションがあるからでもない。


かつては、研究者である以上、「研究対象を好きでなければならない」とか「好きなモノを扱っている所に勤めるべきだ」とか思い込んでいた。
研究対象を好きになろうと努力したり、他の会社への転職を考えたりした。
しかし、好きになろうとした3~4年間で得たものは「え?これだけ?」というほど薄っぺらかった。


こんなに扱っているモノを好きになれない研究者は僕だけじゃないか?と不安にもなった。
しかし会社の同僚が言うには、「これでも僕はまだ『仕事を好きな方』であって『恵まれている』」らしい。

普通は仕事で心躍る場面なんてほぼ皆無だし、研究所にいても心を無にしてただ働いている人ばかりだ、と同僚は口をそろえて言う。
僕は1週間で2~3回は心躍る場面がある。
残りは「あ~怠いな~」とか思いながら、程々に手を抜いて仕事をしている。
怠い時間の印象が強く、心躍る場面を忘れがちだが、思い返せばソコソコ楽しめている。


確かに僕は、研究しているモノを好きになれない。
それでも、ある程度は充実した仕事ができているし、何より辞めたいと思う事は殆ど無い。


もし今、研究しているモノが好きでない、でも研究職に就きたい、と悩んでいる方がいたら、僕は迷わず「研究者になってみたら?」と背中を押したい。
仕事のどこに面白さを見出すかなんてその人の自由だし、モノが好きでなくとも永く研究を楽しめる、と僕は思う。