入社してからの大半をドブに捨ててしまった、と僕は思っている。
身の丈に合わない成長戦略を選んでしまったためだ。
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僕は人一倍才能が無い。
早くも小学生の頃から何となく自覚し始めた。
そして中学2年生の時、剣道部の部室で「グズな自分が生き残るには、勉強していい成績を取って、グズさを何とか隠すしかない」と思い至った。
当時の部室の薄暗さと、防具のカビ臭さは今もありありと思い返せる。
いい会社に入れさえすれば、後はひたすらしがみつく事に力を注げばいい。
だから当面は、自分を「いい人物」に仕立て上げる事に注力する。
当時中学2年生とは思えない現実的な思考だと今でも思うし、非常に的を射た戦略だったと当時の自分を褒めてやりたい。
それからというもの、僕は勉強に励んだ。
それなりにいい大学に入り、卒業し、当時思い描いていたような「いい会社」に就職できた。
そこで僕は浮足立ってしまった。
自分がグズであることを忘れ(正確には覚えていたが、その度合いを軽く見積もりすぎてしまった)、「会社から自立して生きていこう」という薄っぺらい自己啓発のフレーズに毒されて、本業を蔑ろにして、「自立して生きていくスキル」をつけることに躍起になってしまった。
英語、数学物理の思考力、副業...
確かにある意味大事なスキルだが、6年間を通して感じるのは、「あれ?俺全く力付いてなくね?」という無力感だった。
理想の僕は、もっとずっと上手くやれるはずだった。
目の前の仕事を、もっと上手く捌けるはずだった。同僚と、もっと上手くやっていけるはずだった。今の仕事をもっと良いものにできるはずだった。
「自立するためのスキル」を磨いていながら、いつの間にか「今の会社でもっと頑張りたい」と思う自分がいた。
僕は「自立して一人で生きていきたいタイプ」ではなく「集団の中でうまくやっていきたいタイプ」の人間だった。
それなのに、「会社から自立すべきだ」という意見の心地よさに流されて、本来の自分を塗りつぶしてしまった。
ここに僕の失敗はある。
力がつかなかったのは当然のことだ。
「自立する」という見当違いの方向を向いている時点で、どれだけ頑張っても本業に結び付くはずがない。
なのに僕は「今の会社でうまくやりたい」という心の声を無視して、スキルを磨き続けてしまった。
自分を隠し立てなく分析し、世の中の「こうするべきだ」に流されず、幼稚臭くてもいい自分だけの戦略を打ち立てるべきだった。
僕が真に取るべきだった戦略は、今の会社でうまくやっていくためのスキルをつけることだった
同僚との会話を増やす、市場調査を深める、誰もやらない仕事を率先してやる...。
続けると確かに仕事に深みが出るが、定量的なパラメータでは表しにくい。
この「定量的に表しにくい」不安定さから逃げてしまったように、今は思う。
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自己啓発のフレーズのうち、「成長戦略を立てよう」という根本の部分には共感できる。
しかし、そこから一歩踏み込んだ具体的な方策は、あくまで自分ベースで考える事を奨める。
世の中が○○だから...△△の方が得をするから...といった「説得力のある意見」には耳を貸さないことだ。
僕は耳を貸して失敗した。
自分に合った戦略は、自分に合うほどに頼りなく、間違っていて、不安に思える。
しかしその不安定さに耐えて、自分と自分の回りを観察し続け、自分が「良い」と感じた選択肢を選び続けてこそ、良い未来が開ける。
「会社にしがみつく」は、言い換えると「組織をつくる一人一人に心を通わせ、組織をいい未来へ導く」という事でもある。
言い方ひとつで、どうとでも変わる。
今の自分がどんな人間なのか、隠し立てなく見つめ、受入れ、次の一手を打つことをお勧めしたい。
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