先日、新しい研究テーマを考えていた。
上司の息がかかったテーマであり、次の会議での提案がほぼマストになっていた。

考えの途中で分からない事が出てきたため、何気なく営業担当者と連絡を取る事にした。
すると、その担当者から、思った以上にテーマについて突っ込まれた。

要約すると、「営業は営業で仕事があり、研究がいきなりテーマを出されると扱いに困る。今回みたいに事前に相談してくれると助かる」というもの。
ちょっと考えれば分かる事だったが、僕にはそれを配慮する姿勢が欠けていたことに気付かされた。

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他にも似た話がある。
ラボ品をスケールアップする際、地味に困るのが薬品の調達だ。
ラボのスケールアップ設備は実機ほど大きくはないので、製造グレードの容量を購入すると余ってしまう。
なので、製造部から薬品を分けてもらう事が多い。

しかし、直前になっていきなり「スケールアップやるから薬品をくれ」と言うと、まあ嫌がられる。
そこで今回、上司にそれとなく「スケールアップがある旨を製造部に伝えてほしい」とお願いした。
すると、薬品の調達がすんなり進むようになった。

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こうした経験から分かったのは「研究開発といえども"根回し"のようなコミュニケーション技術が不可欠」だということだ。

「根回し」というと、陰湿でネチネチしたものを想像するかもしれないが、必ずしもそうではない。
むしろ、お喋りの中で軽く話題を振ってみるとか、そういうライトなものだと気付かされた。

「今度僕たちのチームで試作するんですよねぇ」
「そういえば、○○を使って新しいモノを作りたいと考えているんだ」

こんな軽い一言が、後々身を助ける追い風となってくれる。


研究開発にいると、先に進みたい気持ちやら、後漬けで言ったら分かるだろうと決めつけてしまったりやらで、こういった「ちょっとした一言」に気が行かない傾向にあるようだ。
少なくとも僕の場合はそうだった。

定量的な感覚が満ちていると思われがちな研究開発だが、実際は人の集まりであり、人と人とのつながりという定性的・感情的な部分が多くを占める。
そういったひとのこころに配慮できる人が、R&Dで成功する人だ。
...と、電話好きな上司を見て感じた。


そしてこれらの経験から、人の心は思わぬ衝撃にものすごく弱いのだと気付いた。
開発側はサプライズの方が喜びもひとしおだろうと考えるが、受け手(営業、製造...)は泡を食い、むしろマイナスの心象となる。
この出し手と受け手の温度差は、新しいモノをスムースに商業ベースに乗せるうえで頭に留めておくべき事だと思う。

新しいモノの創り手が身に着けるべきマナーなのかもしれない。