研究開発において、上の立場の人が発してはいけない言葉No.1があるとするならば、僕は「この測定値、合ってる?」を挙げる。
というのも、先日、測定値を巡って、すごく嫌な思いをしたからだ。
-------
僕は今、あるサンプルの長期貯蔵安定性試験を行っている。
サンプルを1つ1つビンに詰めて、下は-20℃の冷凍庫~上は100℃のオーブンまで条件を振って、1ヶ月毎にサンプルの粘性を測定する。
試作品の耐久性を確認する、製品化するうえで必要不可欠な試験だ。
その試験結果を上司に報告した時のことだ。
その上司が「おかしい...」と唸り、「サンプルAとサンプルBの測定値が逆じゃないか?」と聞いてきた。
(あっ、お得意のやつが来た)と瞬時に察した。
そして、だんだんと腹が立ってきた。
この時僕が強く感じたのは、以下の2点の不信感だ。
①自分の腕を信用してもらっていないという不信感
②上司が先入観に囚われているという不信感
「測定値が逆じゃないか?」と言われた瞬間、僕が操作した僕の身体、すなわち足の先から頭のてっぺんまで、じろじろ見られているような強い不快感を感じた。
「サンプルのラベルをきちんと確認したので...」と、値が合っている弁明をするうち、「僕はきちんと測定したのに...」と悲しくなった。
これに関しては、僕にも落ち度があって、測定値を聞き直される程度の雑さでしか仕事をしていない、という事なのかもしれない。
しかし、聞くにしても、もう少しクッションを利かせた聞き方というものがあるだろう、とも感じる。
また、今回の上司の発言の背景にあったのは、自然法則の軽視ではないか、と僕は感じた。
今回の測定で、サンプルAの値は減少傾向にあり、サンプルBの値は上昇傾向にあった。
それが、今回に限っては逆の値になった。
これまでの傾向に合わないという理由で、上司は「測定値が逆か?」と聞いてきたのだ。
僕は「サンプルの測定値がそうだったのなら、そういうものなのだろう」という考えだ。
サンプルの値は、普通に測定する限りは自然法則を反映したものであり、傾向に合わないからといって、まず測定精度を疑うのは、自然法則の存在を軽んじていると、僕は思う。
その上司は、合わない値を資料から削除したりする人でもあったため、上記の思いが一層強くなってしまった。
(追記しておくと、矛盾する値を資料から省くのは、結果を出すうえでは大切なテクニックだったりする。
僕はなるべくそういう事はやりたくないため、大抵は測定値通りの値をバカ正直に書き込んで、上司にツッコミを受けている。
どういう姿勢が一番いいかは、自身が何を目指すか・どういう人でありたいかに依ると思うので、ここでは議論しない)
-------
長くなってしまったが、ここで言いたいのは「この測定値、君が測定した値で合ってる?」と聞くことは、①腕を信用してもらっていないという不信感 ②先入観に囚われているという不信感 を引き起こしてしまう可能性がある、ということだ。
もちろん、研究を深めるうえで測定値の精度を尋ねる事は不可欠な一面もある。
ただ、このような問いを発する時は、最大限の配慮をせねばならない、と僕は思う。
プライドというものは、合理不合理に関わらず存在し、合理的に判断を下す際の地雷になりかねないからだ。
コメント
コメント一覧 (4)
「測定値通りの値をバカ正直に書き込み」続けてください。
また、ある程度の理屈と整合性が取れない結果が得られたということはそこに価値が生まれているかもしれないということだ。確認し直すに十分意味がある。あなたの思考ではなにか生み出すことはできそうにない。研究者でなく開発者ならそれで良いが。