僕の会社では、樹脂を使った水系製品を作っている。
水系製品とは、これまで有機溶剤を使っていたのを水に代替した製品のことだ(読んで字のごとく!)
一見するととてもエコだ。地球環境に優しい。気がする。僕も今の会社に入るまでは、「水系化=エコ!」と思い込んでいた。


しかし今の会社に入り、実際に水系化に携わって分かったのは「水系製品を作るためにガンガンにエネルギーを使う」という事実だった。

樹脂は有機溶剤には溶けてくれるが、水には溶けてくれない。なので水系製品では、溶かす代わりに分散させて、何とか「溶けている体を保って」いる。

具体的な手法を説明すると、樹脂を分散させるには
・有機溶剤に樹脂を溶かして
・100℃近くまで熱をかけて
・高トルクモーターでガシガシ撹拌し続けて
・最後に溶剤を蒸留する
こんな膨大な手間暇をかけて、分散化に必要な活性化エネルギーを乗り越えている。

...お気づきの通り、水系化には有機溶剤を使うし、熱や撹拌力を得るために電気エネルギーをガンガンに使う。
結局のところ、有機溶剤は大気中に放出されるし、溶剤品を作るよりも大きなエネルギーを食うのだ。エネルギーを生み出すために放出されるCO2の量も多くなる。
つまるところ、どこで放出されるかの違いでしかなく、totalで見るとエコ収支は負に偏るのだ。


つまるところ、水系製品は「水系品だから溶剤品よりも環境に良さそうだ」というイメージ戦略が大半を占める。
人が扱う場面では、VOCが健康面での問題を引き起こすので、水系の方が選ばれやすいが、これも放出される場所の違いでしかない。水系品を作る場面では、依然として作業員は有機溶剤へ曝露しうる。

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上記の考えを的確に示してくれている図を見つけました。
VOCでもCO2でも原子力でも、何でも根本は同じだと個人的に考えています。

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企業である以上、利益を得なければならない。
この前提に立って行動すると、どんなエコ活動も「エコの皮を被った別の何か」にしかなり得ない。
企業は、環境に良い"ように感じる"というイメージを売って利益を得ている。そのために、環境への害の放出先を遠くに追いやり、見えにくくし、戸棚に押し込んでいる。

某自動車メーカーが「20○〇年までにCO2を△△%削減!」と謳っているが、これも上流の素材メーカーが代わりにCO2放出を請け負うようになっただけだ。
例えば、自動車メーカーは塗装時の焼付温度を下げてCO2量を削減するが、低い温度でも塗装がうまくいくための塗料を作るには、その性能を付与しうるだけの工夫が必要になる。そうした工夫を塗料内に押し込めるには、それだけの余剰なエネルギーが必要になる。すなわち、塗料メーカーがCO2の排出を"肩代わり"する。



僕が今の会社を選んだ理由の1つは「環境に良さそうな事業を展開しているから」だった。
しかし、エコ化を売りにしている今の会社でさえ、事業化できているのは「エコの皮を被った別の何か」でしかなかった。


真の意味で環境保全に関わりたいのであれば、NPOなり研究機関なり、企業以外の場所を勧める。収入は不安定になるかもしれないが、夢があれば乗り越えられる。だろう。


...ちなみに僕が企業を選んだのは、夢を追いたいが収入が不安定になる怖さを乗り越えられなかったからだ。中途半端な覚悟は中途半端な人生に着地する、という事を伝えておきたい。