実験結果のデータが予想と異なる場合、必ずといっていいほど"実験系に物理的な要因が潜んで"いる。


数週間前、お客さんから「ある製品のサンプルが欲しい」と言われ、ラボで有機合成をかけた。
その製品は10年前から存在していて、分子量や粘度など細かな数値が厳密に決まっているものだ。
しかし、実際にラボで作って分析をかけてみると、なんと分子量がいつもより1.2倍ほど大きかった。

分子量を見た直後は、正直訳が分からなかった。「分子量を測るGPCの誤差か?それにしては誤差が大きいぞ?」と思ったものの、深堀りするのも面倒で、「夏場で気温が上がって反応が促進されたか、反応自体の誤差か、GPCの誤差か、そういった要因が集まって1.2倍の数値が出たのだろう」と独り納得し、この問題を放り投げた。
読者の皆様も、このような経験はないだろうか?


...放り投げた問題は、必ず手元に戻ってくる。
数週間後(つまり今)、サンプルを見回っていた上司の「これの分子量はナンボや?」という一声がきっかけで、放り投げていた分子量の問題と再度向き合わざるを得なくなった。
流石に、上司を相手に「色んな誤差が合わさって、1.2倍の数値が出ちゃったんじゃないかと思うんですよ~」とは言えない。しかし他に良い説明が見つからない。結局、上司からは「実験ノートのログを見直して、原因を突き止めなさい」との有難い一言を頂いた。


この一言が、本当にありがたい結果をもたらしてくれた。
「原因が分かるわけねーじゃん」と絶望しつつ、実験ログに目を通してみると、反応液の総量が通常時の2倍になっていたことに、ふと気づいた(この時、なぜ反応量の違いに気付けたのか、今思い返しても分からない。研究の神様のプレゼントとしか思えない)。
お客さんから多めにサンプルを要望されて、仕込み量を増やしたのだった。

そこから1つの仮説が導き出された。
「反応液が多くなったことで、反応液の撹拌が上手く進まず、反応が局所的に進んでしまい、分子量が上がってしまった」と。
今はこの仮説を検証するため、パワフルな撹拌羽根を購入する手筈を進めている。

何が嬉しいかというと「確度の高そうな要因が掴めた」という安心感だ。
企業でのモノづくりは、一度犯した失敗を繰り返す事は許されない。1回目で確実に失敗の芽を摘んでおかねばならないのだ。

否、もっと正確に言えば「何かしら筋の通った手を打っていれば、同じ現象が起きた際も許容されうる」。だから、失敗の原因が分からないと本当にヒヤヒヤするし、原因(らしきもの)が分かれば、後は動くだけなのでとても楽になる。



実験の結果には必ず原因が存在し、その原因は実験系の側にある事が大半である。と僕は常々感じる。
そして処方(投入する物質)が同じ場合、原因は化学的要因ではなく、物理的な要因である場合が非常に多い。
オイルバスの表示温度が実際とズレていたり、撹拌羽根の位置が浅かったり、サンプル管のフタが微かに緩んでいたり。
実験系を組むのはエラー多き"人"であり、実験系自体が及ぼすのは物理的要因であるからだ。


放り投げたくなる問題を解決する際は、まずは実験系を見直してみたらいいと思う。答えが分かった時の快感は、思った以上に美味しいものである。