先日、以下のご質問を受けました。

 

質問内容:理系の研究職就職で、独立の道はあるのでしょうか?

 

これについて、少しばかり持論を述べたいと思います。

 

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前提条件

・高価な設備・原料が必要な研究開発(≒化学系、食品系、モノづくり)

・比較的若手(5年程度、長くても10年程度)で独立



...まず、独立の可能性としては、大きく分けて以下の4択が考えられました。

 

①フリーランス的研究開発

・各研究機関を渡り歩いて研究開発を行う

 

②研究開発コンサル

・研究開発の方向性を提案する

 

③委託業務

・各研究機関の仕事を代行する(特許、論文、分析...

 

④自宅で研究開発

・研究機器を自前で揃える→新製品を開発

 

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まず私の結論を述べます。

「独立して研究開発を行うのは難しい」と私は考えます。

 

 

理由①:研究開発は情報の機密性が段違い→社外の人間は歓迎されにくい

 

私は、研究機関を渡り歩く「フリーランス研究開発者」は、ほぼ不可能に近いと考えます。

その理由が「情報の機密性」です。

 

 

〇研究開発は「信用」で売り買いしているようなもの


私が研究開発をしていて痛感するのが、お客様は「古くからの付き合いだから新製品を試してくれる」ということ。

新しい開発品が使えるモノなのか確かめるには、お客さん側にも手を動かす手間とコストがかかります

それでも手を動かしてくれるのは、「こちらが良いモノを供給し続けてきた→今回も良いモノだろう」という信用があってのことです。

 

また当研究所では、情報漏洩には人一倍気を遣っています。

例えば顧客名は、社内の他部署であってもイニシャルで通します。

出張先で話すときなど、製品名の暗号しか使えません。

客先に初めて出向いた帰り、上司とタクシーに乗った際、うっかり製品名を口にしないかものすごく気を遣い、クタクタになったのを覚えています。

 

 

〇モノづくりにおける参入障壁は高いようで脆い


日本のメーカーは「世界シェアNO.1!」とうたわれる事が多いですが、その大半はニッチな市場だからです。

中小企業がどれだけのシェアを握っていようと、大手メーカーが本気で設備投資すれば、容易に参入できてしまいます。

 

大手が設備投資しないのは、設備を備えてもいい製品が作れるか分からないから。

大手に足りないのはノウハウであり、逆にノウハウさえ掴めれば、既存の参入障壁は無くなってしまいます。

 

だから、製法や運転技術といったノウハウの漏洩は絶対に避けねばならないのです。

 

これらの理由から、「お客様」と「作り方」の情報が漏れてしまうと、メーカーにとっては致命傷になります。

そういった情報を握る人材が他社へ行ってしまうと、そこで情報を漏らしてしまう危険性が高い。

 

なので、フリーランス的研究開発は歓迎されない、と感じるのです。

 

 

理由②:数年間働いた程度では、業界の1/100も理解できていない

 

「研究開発コンサル」「自前で研究開発」も、若手の独立方法としては不適だと考えます。

 

私は研究開発に5年在籍していますが、「どんなものが次代に望まれるか」いまだに見当がつきません。

40年来のベテラン上司が出すアイデアに従って手を動かし、なんとか先見の明を身に着けようと努めているところです。

 

研究所の先輩社員を見ていても、みな他部署で活躍した経験をお持ちです。

 

研究、営業、製造の各部門で一生懸命・長期間働いて、ようやく業界全体が見えてくる。

研究開発の勘所を身に着けるには、数十年といった長いスパンが必要なのでしょう。

 

5年程度では、せいぜい1部門(=研究)しか深められません。

なので、研究開発の方向性を自分一人で考えたり、問題解決を図るには、圧倒的に経験が足りない。

 

研究開発コンサルはもっと経験の積んだ方が手を出すべきフィールドですし、自前で研究開発は空振りのリスクが高すぎます。

 

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〇可能性はどこにある?

 

全くの新規テーマなら可能性はあるかもしれません。

たとえば作家の森博嗣は、自宅で「ジャイロエンジン」を研究しているそうです。

 

また、研究開発において需要がありそうな方面を攻めるのも手だと考えます。

 

たとえば当研究所では、高度な分析は外部に頼ることが多いです。

高価な機器もしくは高度なノウハウの要る分析は、予算と人員が足りず、できないのです。

こういった分析の一例として、NMRがあります。

 

もし私が独立するならば、分析のスペシャリストとしての独立を考えます。

今の職場では、日本のメーカーが外部分析に頼りがちな分析手法を見極め、その手法を完璧にマスターします。

それと並行して給与を貯め、分析機器を購入→独立...的な青写真です。


 

...自分で書いておいてアレですが、上記のプランの実現可能性は限りなく0に近いでしょう。

研究機器の設置に付随する様々な条件(安全対策・公害対策・ランニングコスト...)などを揃えられないからです。

労基が入ってきたら一発でアウトを食らうでしょう。

そんなところと取引したい会社は無い、と断言できます。

 

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上記の意見はあくまで私の一意見です。

もっといい考えをお持ちの方は山ほどいらっしゃると思います。

 

皆様のご意見も、ぜひ伺いたく思います。