どれだけ新しいコンセプトを捻り出しても、お客さんの食い付きがイマイチ...。
そんな泥沼から、ふとした発想の転換により脱することが出来た。
今回は、「新しいモノを創り出すだけが上手い研究開発とは限らない」という私の教訓の話です。
〇大口メーカーに20もの試作品を提出したが、最終的に採用されたのは「従来品のコストダウン」だった
僕がここ1年で担当した案件(樹脂を使ったコーティングの案件)の話。
お客さんから、「今までよりコストダウンして、かつ性能を上げてほしい」という要望を受けていた。
性能アップのために、原料を変え製法を変えて試作品を作り、お客さんと合同で1年間検討を繰り返した。
しかし、思うように性能が出なかった。
研究開発ではよくある話だ。
さて、1年経ち、行き詰った僕たちは、悪あがきとして最後の手を打ってみた。
その内容は「従来品を使用し、製品中の有効成分を5%アップする」という提案だった。
有効成分量をアップするので、相対的なコストは下がる。
しかし従来品を使うので、大幅な性能アップは見込まれないし、なにより見栄えがしない。
なので、「この案はどう考えても却下されるだろうな」と、半ば諦めの境地だった。
しかし蓋を開けてみれば、この見栄えのしない「従来品のコストダウン」案は、お客さんの営業・調達・製造部門いずれも、今までに無い食いつきぶりだった。
〇製造現場に手順変更の負担を強いることなく、かつ調達部門の手柄となる安さを提供
お客さんの食いつきが良かった理由を考えてみた。
「製造ラインに変更を加えることなく」「調達部門が胸を張れるだけ値段を下げられた」ためだと思い至った。
新製品を採用してもらうと、今までの製法を1から再検討する必要がある。
するとやることが増えるのは製造部門だ。なので当然、製造部門は嫌がる。
また、性能アップしたがコストもかさむと、コストを管理する調達部門の顔が立たなくなる。
こうした「現場の声」は、思った以上に経営陣の意思決定に影響する。
特に化学系メーカーでは、この毛色が強いように感じている。
お客さんの営業から何度も言われたのは、「製造が嫌がって検討に手を付けない」という嘆きだった。
〇性能を追うのは大前提で、更にお客さんの様々なセグメントが手柄を取れるように気を配るのがキモ
研究開発はとにかく性能のみを追求しがちだ。
しかし、仕事である以上、バランスを取る感性も性能追求と同じくらい大切だと、今回の経験から痛感した。
どう考えればバランスの良い戦略になるのか。
今回学んだコツとして、以下の2点を押さえておくべきだろう。
・お客さんを様々なセグメントに分割して考える
・各セグメントが、できるだけ得をするよう考える
「お客さんの得」を考える上でのキーワードは、「楽をさせてあげる」「安く提供してあげる」の2つ。
これは、自社で開発した新製品を製造ラインに持っていく際にも当てはまる。
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