本書は、山本兼一さん作の歴史小説だ。
「夢をまことに」
一介の鉄砲鍛冶(名は一貫斉)が、望遠鏡・ボールペンなど様々な発明品をつくりだす。
その発想の量と質の高さから、一貫斎は「日本のダ・ヴィンチ」と呼ばれている。
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民間の研究開発者にとって、以下の問いは至上命題だ。
「自分の持つ技術を元手に、手元にあるもので新しいモノを創り出す」
このために、人はどうあるべきか・何をすべきか。
この問いに対して本書は、一貫斎の生き方を通してヒントを示してくれている。
特に印象に残ったのは以下の3点だ。
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①うまくいくアイデアを考え抜く
あなたは研究テーマがうまくいかなかった時、どのくらい「考え続けて」いるか?
~ずっと考え続けているのです。どうすればうまくいくのか、ただそれだけを考え続けているのです。頭がこちこちになるまで考えて、くたびれたら別のことをしてから、新しい気分でまた考え続けるのです。~
(下巻P85;どうすれば斬新な発想ができるのかという弟子の問いへの一貫斎の答え)
僕は「頭がこちこちになるまで」考えたことが、この研究生活であっただろうか?
考えたことがあったとして、それは一貫斎のレベルに達していたのだろうか?
こう自問せずにはいられなかった
②試行回数を重ねる
前に進むためには、手を動かすしか無い。
分かっているはずのこの真理も、経験を重ねる内に忘れてしまいがちだ。
~わたしの拝見したところ、一貫斎様は決して諦められません。どんな思いつきでも、実際に試しておいでです。たとえ、不可能に見える夢であっても、諦めずにずっと挑み続けていれば、必ず敵うことを信じておられるのでしょう~
(下巻P38;失敗に落ち込む一貫斎にかけた付き人の励ましの言葉)
一貫斎は、望遠鏡に使う鏡の鋳造に、丸10年を費やした。
日本で手に入る銅と錫だけを用いて、日本の鏡作りの技術だけを頼りに。
試してみて、結果を顧みて、次に臨む。
モノの機微を読み取る力・ほんの数μmの微調整を支えるだけの技術。
われわれ現代人が過去の遺物とないがしろにしがちな力の大切さが身に沁みた。
③本気で取りかかる
研究テーマに手をつけて最初の1ヶ月は、青臭いやる気に満ちていたはずだ。
それが、1年経ち2年経つうちに、どんどん小賢しくなり手を抜くようになってしまう。
~一貫斎は正直なところ、嘉七がなにを褒めてくれているのか、よく分からなかった。仕事は全部本気でするものに決まっているではないか~
(上巻P171;銅屋嘉七の褒め言葉を受けた一貫斎の内心のつぶやき)
一貫斎は、目の前のモノに全神経を注ぎ込む
ハードワークを支えるのは、モノの先にいる人の役に立ちたいという想いだった。
一貫斎のように仕事が出来れば、どれだけ楽しいだろうか。
そう思わずにはいられなかった。
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本書では、研究開発を行う上での理想の姿が鮮明に描かれている。
まさしく「ここまでできれば」というロールモデルだ。
僕はこの本をきっかけに、研究開発という仕事に本腰を入れることができるようになった。
ぜひ、一人でも多くの研究者に読んでもらいたい。
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